久々の学外実習(その1)

 2021年6月26日、食料農業システム実習Aを受講する12名と教員1名が、現地実習先の高島市マキノ町森西地区を訪問しました。森西地区はメタセコイア並木から車で5分ほどのところにある小さな集落ですが、これまで1枚も耕作放棄地を出すことなく約16ha(うち傾斜度1/20以上の棚田は8.4ha)の棚田を維持・保全しておられます。

森西の棚田を見上げる

今回の実習は、集落の共有資源の管理作業に参加しながら、棚田の維持やブランド化について現地の方々の考えを伺い、地域農業の維持発展について考えることを目的としていました。参加した学生は、コロナ禍で学外実習ができない日々が続いたこともあり、貴重な機会に積極的に学ぼうとする姿勢がみられました。


実習では、まずメタセコイア並木で有名なマキノピックランドを訪れ、森西地区の農家の方も多く出品されている直売所を視察してその管理運営についてヒアリングを行いました。


ピックランド前のメタセコイア並木

ピックランド内の直売所を視察

換気に気をつけながら、桂田支配人(左)と峯森出荷協議会会長(森西区長)のお話を伺います

訪れた時間帯のせいもあって、すでに野菜は売り切れの棚も多くありました。マキノピックランドは旧マキノ町の果樹生産組合が運営管理する農業公園で、直売所の売上も果樹が圧倒的だそうです。棚田の生産物と言えば当然お米なのですが、個人出荷のお米を扱うようになったのはつい3年ほど前というお話でした。コロナ禍で観光バスの来訪がめっきり減った一方で、自家用車での来客が非常に伸びていて、訪れる客層や直売所での売れ方が変わってきているというお話も興味深かったです。

ちょっと休憩。ジェラートもピックランドの名物です。


ピックランドでの視察・ヒアリングを終えた一行は、いよいよ森西の棚田を視察に行きました。森西の棚田は、写真などでよく見る不整形な千枚田とは違い、圃場整備済みで大型の機械も入ることができます。一方で、それゆえに畦畔の段差が大きくなり(最大で7m!)、法面の草刈にはとても労力がかかります。現在は地下水をポンプアップして棚田の用水を補っていますが、圃場整備以前の森西は水に恵まれず、明治時代には山をくり抜いて水を引く難工事が行われました(稲山隧道)。そして一行は区長の案内でその山の上へ…

森西の棚田が見渡せる場所から、区長の説明を受けます

稲山隧道に至る山道の途中から、森西のシンボルの1つでもある田屋城跡(標高310m)に登ると、棚田を超えて琵琶湖や竹生島を望むことができます。この日は曇り空でしたが、眼下の景色は抜群でした。田屋城は室町時代から戦国時代にかけての山城で、浅井氏と姻戚関係を結んだ田屋氏の拠点であったと伝えられています。森西地区ではこうした歴史も大事に語り継いでおられます。

田屋城跡から眼下を見下ろしています

田屋城跡から琵琶湖・竹生島を望む

写真では簡単に登ったように見えますが、なかなかの傾斜でした。登山道の整備なども、集落で行われているそうです。

現地視察後、集落の役員の方々から棚田の維持管理やブランド化についてヒアリングを実施しました。棚田で採れたお米は管内のお米と特に区別されずに出荷されているというお話や、一方で山の水で育てた森西の棚田米は琵琶湖の水で育った米とは一味違うというお話など、さまざまなお話を伺うことができました。なかでも、米そのもので差別化をはかることは簡単ではないが、実際に棚田を使って米を作って販売しようという人を集落外から呼び込んで、宿泊や集落との関係づくりなどを全面的にサポートする「お試し就農パッケージ」のような取り組みを行うことで、差別化だけでなく新規就農や後継者の育成・確保につなげたいというアイデアはとても興味深かったです。

換気抜群のヒアリング会場

受講生は、日を改めて地域の共有資源管理活動にも参加しました。その模様はまた改めてご紹介します。(山口)