ホップの毬花が咲きました

 3月に農学部の通用口の花壇に植えたホップが大きくなり毬花を咲かせました.ホップはピールの香りづけに欠かせないアサ科の植物です.雄株と雌株があるそうですが,雌株の毬花の中にできるホップ腺にあるルプリンという物質が爽快な香りと苦みをもたらすとか.

         どこに花があるか分りますか?
         松ぼっくりのような形をしたのが毬花です.
ホップといえばビールですが,私が一番「おいしい!」と思ったノンアルコールビールです.(10年くらい前に出かけたオーストリアで)
                       (土壌学研究室 森泉)



研究成果が論文として公表されました(植物生命・小野木研)

 黒毛和種は和牛の一種で、霜降りと豊かな風味を特徴とする肉用種です。最近は海外でも「Wagyu」として人気があり、日本の重要な輸出農産物の一つとなっています。


その黒毛和種の品種改良に、近年は遺伝子の情報が利用されています。品種改良は好ましい性質を持つ個体を選抜し、繁殖に用いることで進められます。そのため、おいしい牛肉を効率よく生産するためには、どの個体を選抜するかが重要になります。ただ肉のおいしさや肉量はと畜しないとわかりません。しかしと畜すると子孫を残せません。そのため、生きている間に肉のおいしさや肉量を予測し個体を選抜する必要があります。


この問題を解決するために遺伝子を用います。生物はたくさんの遺伝子を持つため、肉のおいしさや肉量に対しての遺伝子の累積的な(より専門的には相加的な)効果が高い個体を選抜します。この手法はゲノミックセレクションと呼ばれ、現在家畜や作物の品種改良で広く用いられています。


たくさんの遺伝子の累積的な効果の他に、遺伝子には相互作用があるため、遺伝子の組み合わせによっても、おいしさや肉量は変わるかもしれません。もしそうであれば、組み合わせの情報を使うことで、個体の選抜がより正確になるかもしれません。しかしこの「組み合わせの妙」が、おいしさや肉量にどの程度寄与しているのかまだ研究されていませんでした。


今回の研究はこの遺伝子の「組み合わせの妙」が、累積的な効果の1/4から1/3程度、牛肉に関する様々な性質に寄与していることを明らかにしました。これはなかなか無視できない値です。


しかし一方でこの組み合わせの情報を用いても、高い肉量や肉質を備えた個体の予測は、累積的な効果のみを用いた場合と比べて良化しませんでした。この結果は残念ですが、おそらく遺伝子の数が多いため組み合わせの数が非常に多くなり、新しい組み合わせが予測される個体に常に生じるためと考えられました。


今回の結果では「遺伝子の情報を用いて牛の性質を完全に予測し選抜する」というゴールにはたどり着きませんでしたが、今後も研究を続け、より効率的な品種改良の手法につなげていけたらと考えています。


Genomic prediction with non-additive effects in beef cattle: stability of variance component and genetic effect estimates against population size

Akio Onogi, Toshio Watanabe, Atsushi Ogino, Kazuhito Kurogi, and Kenji Togashi

BMC Genomics

First published: 07 July 2021 https://doi.org/10.1186/s12864-021-07792-y


本研究は(一社)家畜改良事業団との共同研究です


(小野木)

【植物生命科学科で扱う実験生物】No.12 文学作品での薔薇 

   植物生命科学では、植物はもちろん、微生物から昆虫まで(中には動物を使ってのデータも!)さまざまな生物を実験に用います。このシリーズでは、各研究室で扱っている生物を順番に紹介していきます。


梶井基次郎1901-1932)はかつて「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」と書きました。桜の美しさに魅了されるとともに恐怖した梶井は、桜が地中に横たわる屍体から流れ出す「水晶のような液」を養分としているからこそ、こんなにも見事に咲くことができると想像したのです。

日本では屍体が埋まっているのは桜の樹の下ですが、さてイギリス(アイルランド)では? イギリス(アイルランド)では、ひょっとすると薔薇の花の下に死者が眠っているかも知れません…。

というわけで、今回は趣向を変え、エリザベス・ボウエン(1899-1973)というアイルランド人作家の短編物語「あの薔薇を見てよ」(1941)に出てくる薔薇について紹介します。この季節にふさわしいちょっと怖い話になるので、ブルっと震えて暑気払いとしていただけましたら幸いです。

「あの薔薇を見てよ」の主人公ルウは、恋人エドワード(実は妻が別にいる!)と出かけたイギリス東部への週末旅行の帰り道、ひょんなことから色とりどりの薔薇が咲き乱れる家にひとり取り残されることになります。その家にはメイザー夫人とその娘ジョゼフィーンが世間からは隔絶された生活を送っているのですが、ジョゼフィーンは背骨を傷めて寝たきりの状態です。どうやらそれは父親のせいらしく、その後父親は家を出たきり二度と戻らなかったと言うのです。ルウはそんな彼女らの話を聞きながら庭の見事な薔薇を見やり、「メイザー氏があの薔薇の根元に横たわっている……」と不気味な幻想と戯れます。

メイザー氏は娘を傷つけてしまったことに耐えきれず家を出たのか、それともメイザー夫人の手によって庭に埋められてしまったのか…。

ルウの幻想の真偽は謎のまま、この物語は終わります。ラテン語には「薔薇の下で、秘密に」を意味する‘sub rosa’という言葉があるのですが(古い習慣として、食堂の天井に薔薇の花を彫り、宴席での話は一切他言しないことを求めたことに由来します)、まさにこの言葉の通り、メイザー家の庭に咲く薔薇の下は絶対の秘密なのです。

薔薇は愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)や聖母マリアの象徴であり、王家・国家の紋章であり、教会建築にその形象が用いられたり、文学作品にも古くか繰り返し描かれたり、西洋では特別な花とみなされています。それはちょうど日本における桜と同じようなものでしょう。

西洋と東洋、薔薇と桜。遠く離れた国に生きる二人の作家が、美しい花に死を連想するという共通の感性を有しているのは大変興味深いことです。

龍谷大学瀬田学舎の美しい木々や花々の下にも、人知れず何か(誰か⁉)が埋まっているなんて噂があったりなかったり…。怖いですね~。(そんな噂はありません。)

梶井基次郎「桜の樹の下には」(『梶井基次郎全集 全1巻』筑摩書房, 1986年
エリザベス・ボウエン「あの薔薇を見てよ」(『あの薔薇を見てよ』太田良子訳, ミネルヴァ書房, 2004年)

(垣口)

【植物生命科学科で扱う実験生物】No.11 仏教と樹木(ボダイジュ)

  植物生命科学では、植物はもちろん、微生物から昆虫まで(中には動物を使ってのデータも!)さまざまな生物を実験に用います。このシリーズでは、各研究室で扱っている生物を順番に紹介していきます。

8月は、お盆のお墓参りや棚経など、日本仏教の伝統に触れる機会が増える時期ですね。真宗学研究室(打本)による今回のブログは「植物生命科学科で扱う実験生物」の番外編として、瀬田キャンパスの樹木と仏教にまつわるお話をお届けいたします。

この写真は瀬田キャンパス樹心館の横の樹木です。一見、普通の木に見えますが、実は仏教の開祖であるお釈迦様がこの樹下で悟りを開いたことから「菩提樹(ぼだいじゅ:菩提とは悟りの意)」の和名を持つ樹木なのです。

ただ、インドの菩提樹はクワ科イチジク属なのに対して、日本で一般に言われる菩提樹はアオイ科(旧シナノキ科)シナノキ属です。どうして日本の菩提樹とインド菩提樹が異なっているのでしょうか?

答えは、日本に菩提樹が伝わる以前、中国での出来事に遡ります。

インドの菩提樹は中国の屋外で越冬させることが難しかったそうです。それでもお釈迦様に思いを馳せた中国のお坊さんは、葉の形がよく似たシナノキ科の樹木を菩提樹としてお寺の境内に植えて大切にしていました。その種を中国(宋)に留学した鎌倉時代の僧侶・栄西(日本臨済宗の開祖)が持ち帰り、お寺の境内に植えたのが日本の菩提樹の始まりだとされています。

このような逸話のある菩提樹。まだ見たことがない方は、ぜひ瀬田キャンパス樹心館の横に足を運んで、樹木と仏教のつながりに思いを馳せながら眺めてみてください!

(打本)



「食の循環実習」成果発表会

 農学部必修科目「食の循環実習」では、学科の壁を超えて人間関係を構築し、学生が主体的に学ぶ姿勢を養いながら、作物栽培の本質を学ぶことを目的として、農場実習での班活動を取り入れています。各班は割り当てられた圃場で、好きな作物を栽培します。班員はLINEで情報共有し、実習時間以外も協力して栽培管理を行い、収穫までいたっています。

その成果発表会を、7月20日と7月27日の二日に分けて実施しました。各班の発表は素晴らしく、限られた発表時間しかないことが残念なほどでした。失敗から学ぶことが多かったようで、今後、各分野において、それらの経験が活かされるものと思います。

何よりも、学生達の楽しそうに取り組む姿が印象的でした。

学生による投票、教員の採点の合計点によって評価されました。

発表後には学生間で活発な質疑応答もありました。

1日目最優秀賞のA2班です。

2日目最優秀賞のC4班です。

(「食の循環実習」農場実習担当 玉井)

湖南市の新しい特産品作りの試み

 植物生命科学科の古本の研究室では、基礎研究に加え、地域の期待に応える活動もしようということで、ここ数年、湖南市から依頼を受けや新しい特産品作りのプロジェクトを進めています。

古本が個人的に趣味としていた養蜂からアイデアをえて、「Konann Honey」の販売を始め、今では、養蜂の上で欠かせない花粉源や蜜源となる植物を植えるところまで話が進んでいます。

選んだ植物は「カラシナ」。これからは、「蜜」と「花粉」と「種子」を得ることができます。

地元の方の協力を得て、学生たちと訪問し、2月には畑を起し、苗を植え付け、成長を見守り、初夏には収穫を行いました。

収穫されたカラシナ種子から、和からしを自作し、すでにある特産品と掛け合わせていく予定です。


蜂蜜と掛け合わせれば「Honey masterd」、

マヨネーズと掛け合わせれば「からしマヨネーズ」、

湖南市の特産品である下田茄子と掛け合わせれば「下田茄子の辛子漬け」

ができるのではないか。

この企画には、湖南市下田の漬物屋さん「やまじょう」も協力していただけることになり、下田ナスの収穫体験のほか、工場見学と今後の指導をお願いすることになりました。


3000本の苗が植えられています。枝ぶりをうまくコントロールして、風などで実が傷まないようにする栽培方法です。



卵の大きさくらいの茄子を収穫します。

厳しく選抜し、良い実を選びます。

圃場見学の後は、工場見学をさせていただきました。

帰りには、本店で色々買い物をしました。私的には、チーズの味噌漬けがお勧めです。とても美味しい。

やまじょう、自信の下田茄子の漬物。あまりの美味しさに学生たちは大喜びでした。





収穫した茄子は各自お土産に持ち帰り、各家庭で調理しました。我が家では半分にして焼いただけ。皮が薄くて美味しいです。

学生の家では、マーボナス、煮浸しと、美味しいお皿になりました。

本番は、これから。
マスタードを調製し、辛子漬け、からしマヨネーズへと展開させます。
湖南市の企業、農家、市役所の皆さんのおかげで、学生たちは湖南市を好きになり、どうにかお手伝いできることを考えています。
まだまだお世話になることばかりですが、引き続きよろしくお願いします。
(古本)




兵庫県丹波市との活動とフィールドワーク

金子ゼミでは、兵庫県丹波市への訪問を通じて農業や地域経済等の学びを深めています。
昨年度および今年度の活動について、4回生の広瀬くん、高橋さん、倉橋くんにその内容を聞いてみたいと思います。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【2020年の活動】
私たち金子ゼミの学生は、2020年度は新型コロナウイルスの影響により現地を訪れることが出来なかったため、丹波市で移住相談窓口の運営をされている(一社)Beの代表理事 中川ミミさんにご協力いただき、オンライン・ワークショップを行いました。

具体的には、特産品班・観光班・農業班の3グループが、丹波市のステークホルダーマップを作成し、オンラインでの発表会を通じて地域の理解を深めました。 

特産品班は丹波三宝のひとつである「栗」に注目し、情報収集を行いました。 丹波栗ひとつに注目してみても、関わっている組織や団体を細部まで調べていくと、想像以上に多くの人々が関わっていることが分かりました。




ステークホルダーマップ作成後の発表会では、中川さんより講評をいただき、新たな課題点、発見点をみつけることができました。その後、中川さんからいただいたお題に基づいて、丹波市や他地域の社会や経済等を深く調べ、再度発表する機会を持ち、理解を深めることができました。現地ならではの情報やアドバイスをいただき、オンラインではありますが、丹波市の現状を知ることができました。 

【2021年の活動】
そして2021年7月22日に、私たちゼミの学生5名と金子先生が兵庫県丹波市を訪問し、現地企業の見学を行いました。

現地到着後、 (株)やながわ 代表取締役 柳川拓三さんと「夢の里やながわ本店」で合流しました。(株)やながわは、丹波市の特産物である丹波栗・丹波黒大豆・丹波大納言小豆や新鮮な食材を和洋菓子等に加工・販売している企業です。柳川さんは、丹波市観光協会や兵庫県指定観光名産品協会で会長を兼任されるなど、2020年に実施したワークショップで学生が最も注目していた方です。

はじめに、丹波栗の圃場を見学しました。圃場では2 種類の栗を列ごとに分けて栽培することで栗の受粉率を向上させ、生産性を高める取り組みをしています。柳川さんのお話から、栗の生産を安定させるには10年かかることを知り、丹波栗をブランドとして維持することの難しさに気づかされました。

続いて、地域資源活用拠点施設「ゆめの樹」にて、柳川さんより、特産品の維持や (株)やながわの事業内容についてお話を伺いました。丹波の特産品の歴史や特徴、発信方法等を教えていただきました。ただ利益を得るために企業を経営するのではなく、昔から生産者の並々ならぬ努力で維持してきた丹波の宝を守っていくために特産品を販売・発信しているのだと知り、熱い想いを感じました。
   

午後は(株)大地農園を訪問しました。 (株)大地農園は、高い技術で生花をプリザーブドフラワーとドライフラワーに加工し、日本国内・海外へ販売するトップメーカーです。龍谷大学OBであり、営業課統括マネージャーの大地憲一さんより、製造や海外事業についてお話を伺いました。

唯一無二の技術で製造される高品質なプリザーブドフラワーは創業以来60年間、他社に模倣されたことがないそうで、海外からの直接注文も非常に多いそうです。大地農園は、原料の一部は丹波産を使用し、環境に配慮した製造を行っています。高度な技術を駆使して丹波からグローバルに事業を展開することで、地域に大きく貢献していることを知り、新たな地域活性の形に気付かされました。
 

お話を伺った後、工場を見学させていただきました。工場では植物の脱色や着色、梱包などの様子、加工に使用する大型の機械を拝見しました。バラやアジサイ、シダなど様々な花卉が加工されており、また脱色したアジサイを液体に数十秒漬けただけで鮮やかな青紫色に染まったのにはとても驚きました。


最後に、受入れの調整をしていただいた(一社)Beの中川さんと、丹波移住テラスにて、振り返りを行い、今回の活動で学んだことや感じたことについて意見交換を行いました。


「柳川さんのお話から、想いや理念の中に全ての理由があるということが学べた」という意見や、「大地農園での工場見学では製品の美しさだけでなく植物の良い香りがとても印象に残った」などの意見が出ました。

これらの意見を通して、熱意を持って活動されている方のお話を生で聞いたり、現場の様子を自分の目でみて、五感で感じることは非常に大事な経験だと感じました。コロナ禍のなか兵庫県丹波市への訪問を実現でき、純粋に楽しかったと同時に、現地へ足を運び、五感を通じて知ることの面白さや大切さを改めて感じることができました。

次回、訪問できる際には更に有意義な活動にできればと思います。(倉橋・高橋・広瀬)

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今回、ご協力いただいた丹波市の皆様に心より御礼申し上げます。(金子)

もうひとつの学外実習:京丹波町・篠ファーム(その2)

  「もうひとつの学外実習」の第二弾は、7月24日に京都府の京丹波町にある篠ファームで実施されました。

 篠ファームは、世界一辛い唐辛子としてギネスブックに載ったことがあるハバネロを日本で初めて栽培したことで有名です。しばしばテレビ番組などで紹介されています。

 はじめに契約農家さんの圃場へ行き、ハバネロをみることができました。「試しにかじってみて」と差し出されたハバネロを少しかじった(勇気ある?)学生の反応・・・それをみただけで、あとに続くものはいなくなりました。マスクをしたまま切り口の香りを嗅いだだけで強烈な辛さがわかりました。この辛さゆえに、猪や鹿などに食べられるという獣害に遭うことがなく、中山間地帯に適した作物です。

ハバネロをみる

香りで十分辛さがわかります

 ハバネロを圃場でみた後、篠ファームの事務所で社長の高田さんからこれまでの取り組みについてお話をうかがいました。はじめは見向きもされなかったハバネロを苦労しながら辛抱強く売り込み、今では大手商社から商談が来るほど全国的に注目される存在となっています。激辛の唐辛子の種類もハバネロだけではなく、現在40種類ほどの唐辛子を扱うようになりました。作り手の農家さんは、中山間地域の高齢者がほとんどです。農業生産の条件が不利な地域で、小規模生産者をつないで、オンリーワンのビジネスを展開する高田さんの情熱が伝わってきました。

ハバネロのソースをもって記念撮影

 お土産にハバネロのソースをいただきました。猛暑が続いていますが、参加した学生たちは、辛いものを食べて暑さを吹き飛ばしているのではないでしょうか。
 篠ファームのみなさま、契約農家のみなさま、有難うございました。   (淡路)





滋賀テックプラングランプリでダブル受賞!

 2021年7月31日、大津プリンスホテルで開催された「滋賀テックプラングランプリ」において、チーム「ドラゴンアグリ(資源生物科学科 植物栄養学研究室)」が「滋賀銀行賞」と「橋本グループ賞」の二つをいただきました。

「琵琶湖を中心とした循環型農業の実現〜過去と未来をつないで〜」というテーマで、水草堆肥とプラズマ発生装置を併用し、琵琶湖の環境保全と農業振興を両立させる研究内容を発表しました。

企業賞とは別に、中高生を含む来場者の投票もあり、それでは得票数が1位となりました。一般の方々にとっても興味関心の高い研究であることがわかりましたので、今後ますます研究に力を入れていきたいと考えています。




(植物栄養学研究室 玉井)

もうひとつの学外実習:東近江市・奥永源寺(その1)

 食料農業システム実習は、今期ふたつのクラスで構成されています。すでに紹介された深清水で実習するクラスの他に、東近江市の奥永源寺と京都府の京丹波に行くクラスがあります。ここでは、後者の奥永源寺での実習の様子を紹介します。今年度は、緊急事態宣言で実習が延び延びになり、7月に入ってからの実施となりました。

  7月3日、学生13人が奥永源寺に行きました。ここは、滋賀県と三重県の県境の山深い所で、道中「本当にひとが住んでるの?」と心配になるほどの山奥です。いわゆる限界集落なのですが、ここで展開されているビジネスが注目されています。そのビジネスの仕掛け人が、地域おこし協力隊として移住した前川さんです。前川さんはTVドラマ化された小説「限界集落株式会社」を思い起こさせるような地域おこしを実践しています。

 現地に着いた学生を案内するのは、その前川さん。集落内をまわり、朽ちて行く空き家群を前に過疎化の深刻さを実感する一方で、ここが木地師(ろくろを使って木工品をつくる職人)発祥の地であることや天皇家に縁のあるお寺や神社があり、集落で維持管理されていることを知り、この地がかつて歴史の舞台であったことが理解できました。

奥永源寺の集落を視察

 次に、ムラサキの栽培圃場に案内していただき、白くかわいい花をつけた様子をみることができました。ムラサキの根は、染色に利用される他に、薬用成分に富むことから化粧品への利用がなされています。化粧品は付加価値が大きく、猫の額のような圃場からの売上高が数百万円になる話を聞いて、学生たちは大変驚いていました。

ムラサキの栽培圃場

 午後は、ムラサキを使った染色体験をしました。布を染めるという作業だけではなく、ムラサキにまつわる前川さんの語りが絶品でした。飛鳥・奈良時代にさかのぼる壮大な歴史ロマンに学生たちは心を鷲づかみにされ、その面白さにすっかり染められているようでした。

ムラサキで染色体験

 自然や歴史・文化、動植物、景観など地域の資源をつぶさに洗い出し、深く掘り下げて新たなビジネスを創出する取り組みに、学生たちは感銘を受け、質疑応答も活発なものになりました。雨という予報でしたが運よく天候に恵まれ、限界集落といわれる土地に触れ、いろいろな刺激を受けて、学びの種を持ち帰ることができました。前川さんはじめ奥永源寺の方々に感謝申し上げます。(淡路)

植物生命科学実習(7/26,27)

7月26、27日の3回生の植物生命科学実習(担当:小野木先生)は、「プログラミング言語Rを用いた実験データの解析」でした。普段の実験室ではなく、情報処理室での実習です。

Rとは、統計解析を得意とするプログラミング言語です。データ分析に用いられ、とくに生物学で人気があります。今回はRStudioというソフトウェアからRを使用し、データサイエンスの理解と知識を深めました。 



講義を受けながら、実際に各自でスクリプトを書きます。今回は、データを可視化するためのヒストグラムや箱ひげ図などのグラフの描画、t検定、分散分析、回帰分析などの統計解析の練習をしました。



実習のまとめとして与えられた、条件式を作るレポート課題に皆、苦戦しました。




今回で前期の植物生命科学実習がすべて終わりました。3回生の皆さん、研究室に配属されてからも、これまで実習で学んだ知識や技術を活かして卒業研究を頑張ってください。

 

追記:

6月に行った「アブラナ科蔬菜につく昆虫の調査」(塩尻先生担当)の実習で植えたダイコンとコマツナを、鉢に植え替えて助手室で育てました。

Before

 

After

 

およそひと月で食べられる大きさにまで成長しました!

(中田)

【植物生命科学科で扱う実験生物】No.10 琵琶湖の植物プランクトン

 植物生命科学科では、植物はもちろん、微生物から昆虫まで(中には動物を使ってのデータも!)さまざまな生物を実験に用います。このシリーズでは、各研究室で扱っている生物を順番に紹介していきます。


農学部(瀬田キャンパス)のある滋賀県には、世界第3位の古い歴史をもつ琵琶湖があります。私は、この琵琶湖に住む微生物をテーマに研究をしています。今回は、植物プランクトンを紹介したいと思います。

比叡山から撮影した琵琶湖の風景。遠くに薄く小さく写る島は日本の淡水湖唯一の有人島 沖島です。琵琶湖の全体像はおさめられませんでした。

琵琶湖には、数百種類の植物プランクトンが出現することが知られています。優占種は、季節によってダイナミックに変化します。

これは孔径約20μmのプランクトンネットで引いた201910月の琵琶湖北湖の表水層サンプルの顕微鏡画像です。様々な種類の植物プランクトンが見られます。この日は緑藻(Staurastrum dorsidentiferum)が中心です。

これから、夏~秋にかけて話題になる種と言えば、ミクロキスティス(Microcystis spp.)。上図は琵琶湖でみられたミクロキスティスの群体です。アオコを形成し、水道の悪臭の原因になるなど、琵琶湖の富栄養化の象徴にもされている種の1つです。ミクロキスティスは藍藻類という、原核タイプの植物プランクトンの一種です。悪いイメージもある藍藻類ですが、琵琶湖にも近縁種がいるSynechococcus elongatus(PCC 7942株)は、世界の生物時計研究のモデル生物になっています。私は、ミクロキスティスなど野外にいる藍藻類の概日リズムに興味を持っています。

(吉山洋子)

ブナにおける匂いを介した植物間コミュニケーションの有効距離 (植物生命・塩尻研・大学院卒業生との研究成果が論文として公表されました)

 

匂いを介した植物間コミュニケーションの研究の多くが、草本かつ室内・温室などの非自然環境下で行われています。そのため、実際の野外における匂い有効距離というのは、明らかになっていませんでした。そこで、私達は、樹木(ブナ)を対象に自然環境下での匂いコミュニケーションを明らかにし、さらに匂いの有効距離も明らかにしました。

(写真)匂いを放出させるため、ブナの葉をカットしている様子

                          (図)匂い放出個体からの距離別の葉の被害度度 

        縦軸が被害度、横軸の数字が匂い個体からの距離を示す。

  コントロールにくらべて、距離が近いほど被害が少なくなっていることがわかる。


本研究は、龍谷大学大学院修士課程一期生(現在、京都大学大学院博士課程)の研究でEcology and Evolution に20218月に掲載されました。

(塩尻)

 Effective distance of volatile cues for plant–plant communication in beech

Tomika Hagiwara1,2, Masae Iwamoto Ishihara3, Junji Takabayashi4, Tsutom Hiura5, Kaori Shiojiri1*

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.7990