資源生物科学科(2023年度から農学科)を志望する皆さんへ⑫〜古くて新しい農業資材「籾殻(もみがら)バイオ炭」が地球を救う!?〜

稲作が中心の日本では、毎年約160万トンもの籾殻(もみがら)が排出されますが、その約3分の1は有効に利用されていません。日本では古来より籾殻を炭化させ籾殻バイオ炭(籾殻くん炭)を作り、土壌改良剤として利用してきました。籾殻バイオ炭を利用することによって、化学肥料や農薬の使用量を抑え、環境への負担を減らすと考えられていますが、あまり研究が進んでいないのが現状です。最近、特に注目されているのは、地球温暖化の一因である二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「CO2ゼロエミッション」に貢献できることです。籾殻バイオ炭は土壌の中で分解されにくいですので、光合成によって取り込んだ二酸化炭素を土壌中に留めておくことが期待されているのです。籾殻バイオ炭の機能を明らかにして、地球を救いたい(少しオーバーですが)、そんな思いで研究しています。

(植物栄養学研究室:玉井)


籾殻炭化装置(あいとうエコプラザ菜の花館)

籾殻バイオ炭は袋に詰めて販売されています

籾殻バイオ炭の量を変えてコマツナを栽培

ソーラーシェアリング型市民農園でサツマイモの苗植え

5月14日(土)、竹歳ゼミの3回生7名が、宝塚市大原野にあるソーラーシェアリング型市民農園を見学し、苗植えを体験してきました。ここでは、非営利型株式会社会社すみれ発電がソーラーパネルを設置し、発電された電力をコープこうべを通じて販売するとともに、ソーラーパネルを設置している畑を市民農園として貸し出すことによって、農地の保全も図るという取り組みを行っています。

苗を植える前(上部はソーラーパネル)

当日は、畑を借りているコープこうべが募集した会員さん家族やスタッフさんたちといっしょに、この市民農園の所有者である古家さんの指導を受けながら、サツマイモの苗植えをしました。苗植えは「さすけ」と呼ばれる道具を使って行いますが、最初は苦労していた学生も、次第に慣れて、テキパキと作業を進めていました。

苗植え

苗植え

作業終了後は、近くにある宝塚市自然の家に場所を移動し、参加者全員での学習会となりました。すみれ発電の井上社長からソーラーシェアリングの取り組みについて紹介していただいた後、近畿大学の藤田先生から、地域資源循環とエシカル消費についてお話しいただきました。私からは、現在の日本の食料・エネルギー事情とソーラーシェアリングの意義についてお話しをしました。

学習会

今回植えたサツマイモは、10月にまたみんなで収穫する予定です。(竹歳)


学科交流会が行われました(食料農業システム学科)

5月27日、入門ゼミの時間にシステム学科の学生と教員の交流会が行われました。
みな熱心にメモを取りながら、先生方の研究内容を聞いています。
みんな、クイズに一生懸命参加しています!! 先生方の意外な一面を知ることができ、システム学科全員で、楽しいひとときを過ごすことが出来ました。

研究成果が論文として公表されました(植物生命・小野木研)

 近年の生物学では様々な情報が生物やその周囲の環境から得られるようになりました。例えばゲノムの塩基配列や発現している遺伝子・タンパク質の種類や量、周囲の気温や湿度、日射量などです。このような多種類かつ多量な情報から生物の性質に影響を与えるものを抽出したり、あるいはこれらの情報を用いて生物の性質を予測したりできれば、生物の仕組みについての理解が深まるだけではなく、その農業利用にも貢献できる可能性があります。


今回の研究ではこれらを可能にするための統計学的・機械学習的なアプローチをRというプログラミング言語で実装し、だれでも容易に利用可能なようにパッケージ(要はツールキット)として公開しました(https://CRAN.R-project.org/package=VIGoR)。パッケージは用いた手法(変分ベイズ法)にちなんで「VIGoR」(Variational Inference for Genome-wide Regression)と名付けています。論文ではVIGoRが既存のパッケージより高速かつ正確に情報を処理できることを示しました。



当研究室(生命データ科学研究室)では様々な生命データの解析とともに、そのために必要なVIGoRのようなツールの開発も行っています。今後もツールの拡充を続けていきたいですね。


論文

Onogi A. and Arakawa A. “An R package VIGoR for joint estimation of multiple linear learners with variational Bayesian inference”. Bioinformatics, Advance Access Publication Date: 16 May 2022.

https://doi.org/10.1093/bioinformatics/btac328

                               小野木


博士論文中間報告会(地域社会経済学)

 2022年5月25日

田新宇さんの博士論文中間報告会を開催しました。

主指導教員の挨拶

タイトルは「中国における果実のインターネット販売に関する研究」です。

これまでの研究成果を丁寧に報告します

近年、増加傾向にあるインターネットを媒介とした農産物(果実)流通に卸売業者等の流通経済主体や農産物生産者(農家)がどのように対応しているのかを実証的に解明しようとした研究です。

適格なコメント


厳しい質問


懸命の受け答え

現地でのアンケート調査、実態調査と統計解析を組み合わせた意欲的な研究内容でした。

最終報告会(公聴会)は約一か月後です。質疑応答でいただいたコメントや質問を組み込んでより良い研究論文に仕上げていただきたいと思います。

文責 研究科担当:香川

資源生物科学実習B ③


 キュウリは受精(受粉)なしに果実を形成する単為結果の性質を持っていますが、トマトやナスにも単為結果する品種が存在します。通常のトマトは受粉操作や植物ホルモン処理が必要ですが、これらが不要になるなど栽培上での大きなメリットがあります。

 しかし、これらを選別するために植物体が成長して果実が成るまで待っていては、莫大な時間がかかります。かなり投稿が遅くなってしまいましたが、56日,12日,13日の3日間の実習では、この問題を解決する一つの手法として単為結果性遺伝子のpat-2とpat-kに着目し、2種類の性質の異なるDNAマーカーを使って遺伝的に個体識別する方法を学びました。最終日は制限酵素を用いてDNAの切断し、判別に使用しました。

 

pat-k座近傍のCAPSマーカーの電気泳動
制限酵素で切れない野生型に対して、変異型は切断され2本のバンドが検出される。

 今までの実習で何度かDNAの抽出やPCRは経験してきたので、だいぶ手馴れてきたようですが、これまでと違い、電気泳動の結果から「ホモ」「ヘテロ」の違いも考察する必要があったので、少し悩むこともあったかもしれません。
山本

資源生物科学科(2023年度から農学科)を志望する皆さんへ⑪~イチゴに潜む病気の検出~

チゴは子供や女性に人気のある果物ですが、病気に弱く栽培が難しい品目です。私たちの研究室ではイチゴの病気を防ぐために、いろんなアプローチで研究に取り組んでいます。その一つがイチゴ苗に潜伏している病原菌の検出です。まだ病気が発生していない初期の段階で感染苗を見つけることができれば、病気の蔓延を未然に防ぐことが可能になります。ヒトで言えば人間ドックで病気を早期に発見するのに似ています。それには高感度で短時間に検出する必要があるため、PCRなどの遺伝子診断技術を活用しています。現在は生産者のイチゴ苗の検査も行いながら、より簡便で迅速な検査法の開発を目指しています。 




(植物病理学研究室:平山)

塩尻先生 京都新聞 「探求人」欄に

 植物生命科学科の塩尻先生が、京都新聞5月22日付の「探求人」欄に大きく掲載されました。

匂い物質(香り)を介した生物間コミュニケーションの研究内容とともに、これまでの経歴などがまとめられています。

しかし、塩尻先生の魅力は、新聞の記事の枠に収まるようなものではありません。塩尻先生の魅力は、直接授業を受けたり指導を受けたりしないとわかりません。

模擬講義、オープンキャンパスなどぜひ機会に訪れて、直接触れてみてください。

(古本)





中川ゼミ(食シス):ゲスト講義「持続可能な地域づくり軋轢と対立を乗り越えて 」

2022/の総合演習1において、筑紫女学園大学現代社会学部の上村真仁教授によるゲスト講義「持続可能な地域づくり軋轢と対立を乗り越えて ~よそ者・専門家の役割~」を実施しました。

沖縄県石垣島のWWFジャパンによる珊瑚礁保護研究センターで活動されておられた上村氏の経験を中心に、内発的な地域おこしとは何かについて、ゼミで考える機会となりました。特に「よそ者」が地域の中に入っていくことについて、受講生は強い関心を持ったようでした。



Zoomによるオンライン講義




ゼミ生からは、地域社会からの信頼を得る過程についての質問が出るなどし、これからのフィールドワークに向け、上村さんのお話をどう生かすことができるのかを考えるきっかけにもなったようです。

また、感想としては、以下のようなものが上がり、地域活動のリアリティを学べる機会になりました。

--- 農家と海のつながりを可視化する取り組みというのは面白いと思ったし、つながりという部分はグループ活動で参考にできそうだと思った。(TM)

--- 地域の子供達が赤土の問題を知ったことで植物を植えたりその植物でお茶を作ったりすることができた。地域全体で動く力の強さを感じました。(TT)

-- 地域づくりはその地域のコミュニティが主体、内発的であるという2つの考え方が今後にもかなり生かせそうだと思った。話を聞いて専門家は地域の触媒という言葉が印象に残った。あくまでも地域づくりはその地域に住む人達が主体で無いといけないということが凄く表された言葉だと感じた。(YM)


上村さんの講義後、衛生面に配慮しながら、地域の方々が、特産物として生産、販売している、「月桃茶」と「油みそ」を試食しました。地域ブランドの可能性についても議論する機会を持つことができたと思います。



月桃茶のパッケージは
筑紫女学園大学の学生さんがデザイン


ややクセのある味とのことでしたが、
大半の学生からは「おいしい」の声が上がりました




油みそには、白米やキュウリに合いそう!との声が。



上村さん、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。(中川)


資源生物科学科(2023年度から農学科)を志望する皆さんへ⑩ ~暖房のための化石燃料の使用を“ゼロ”に,トマトの冬期無暖房栽培の取り組み~

  一昔前,トマトは夏の野菜でしたが,今は夏だけでなく一年中,スーパーマーケットでトマトを見ることができます.一年を通してトマトを作れるようになった背景には温室の普及と化石燃料による暖房があります.トマトは気温がある一程度以下になると結実できなくなるため,冬に野外でトマトを作ることは出来ません.そのため,冬は化石燃料を燃やして暖めた温室内でトマトを栽培しています.しかし,化石燃料による温室内の暖房は栽培のためのコストを増やすだけでなく,地球温暖化の原因物質の一つとされる二酸化炭素を大量に排出します.そのため,より経済的で持続可能なトマト生産のためには,冬に暖房しないまたは少しの暖房でトマトを生産できるようにすることが望まれます.

                 トマトの栽培管理を行う学生

単為結果性トマトは,受粉なしに結実する性質を持つトマトで,通常のトマト品種では結実できないような低温下でも果実を生産できます.現在,野菜園芸学研究室ではこの単為結果性トマトを利用して冬に暖房しない温室でトマト果実を生産する冬期無暖房栽培の研究を行っています.冬に無暖房でトマトを栽培するのは現実的にとても難しいですが,日中の気温制御や温室の被覆資材の工夫,低温に強いトマト系統の利用などを複合的に組み合わせることで,無暖房は無理でもできるだけ化石燃料を使用しないトマトの栽培法を確立したいと考えています.

               調査を待つ無暖房栽培のトマト達

                            野菜園芸学研究室(滝澤)



牧農場で新入生が田植えを行いました

 514日(土)牧農場において、農学部の新入生約450名が田植えを行いました。龍谷大学農学部では、農作物の栽培から加工・流通までを体系的に学ぶ『食の循環実習』を行っています。田植えはその一環として毎年実施されているもので、恒例のイベントになっています。前日からの雨が心配でしたが、朝には止み昼からは晴れ間も見えて絶好の田植え日和となりました。最初はぎこちなかった手つきも、次第に要領を得て作業もスムーズに。秋の収穫が楽しみです。準備や当日担当していただいたスタッフや先生方もお疲れさまでした。

今年から水田には水温と水深を計測するセンサーを設置
データはクラウドで共有し、リアルタイムで確認して栽培管理の適正化、省力化を図ります


100mの水田に、先生方の合図で一斉に行う田植えは壮観でした

(資源生物科学科 平山)






Springerから本が出ました

 国際的な学術出版社であるSpringerから私が著者の一人として加わった「Complex Trait Prediction」が出版されました(https://doi.org/10.1007/978-1-0716-2205-6)。

生物の形や性質などは専門的に形質(trait)と呼ばれます。形質は多数の遺伝子の複雑な(complex)作用により形成されますが、近年、形質を遺伝子の情報から統計学的に予測(prediction)しようという試みが盛んに行われています。これが可能になると、遺伝子の情報から将来の疾患リスクが予測できたり、栽培することなく優良な品種を育成できたりする可能性があります。

この本は形質予測のための様々な手法やその応用について解説したものです。私が担当した13章(https://doi.org/10.1007/978-1-0716-2205-6_13)では、作物の生育を模した数理モデルと遺伝子情報を組み合わせた予測手法について解説しています。作物の数理モデルは気象や環境の情報から作物の生育を予測するもので、これと遺伝子情報を組み合わせることで、任意の環境下での作物の形質を予測できるようになります。開花期など比較的予測しやすい形質もあれば、収量など予測が難しい形質も多く、まだまだこれからの技術ではありますが、この章がより多くの研究のきっかけになってくれることを願っています。

さてこの本自体は高価なのですが、私の章はオープンアクセス、つまり無料で誰でも閲覧可能であり、上記のリンクから読むことができます。専門家でないと難しい内容だとは思いますが、ご興味あればクリック&ダウンロードしてみてください。

                                                                    データ生命科学研究室 小野木章雄

植物生命科学実習(4/19~26,5/2)

4/19から4回連続で行われた古本先生の実習では、植物から核酸を抽出し、PCRを行うという分子生物学の基礎的な実験を行いました。 

使った材料はブロッコリーのスプラウトです。


今回の実験では葉・茎・根と組織を3か所に分けて、班の中で担当を決めてDNARNAを抽出しました。

得られた核酸を使い、光合成を担う中心的な酵素であるRubisCOの小サブユニットの遺伝子をPCRで増幅させます。

この酵素は地球上でもっとも多く存在する酵素です。

小サブユニットの遺伝子の塩基配列は保存性が高く、多くの植物で配列が決定されています。また遺伝子コード領域には2つのイントロンが存在します。

組織が異なるとどのような差が生じるのか、実験中に考えながら作業を進めました。

 

1日目は組織をすり潰して、DNAの抽出を行いました。

昨年もDNAの抽出実験は行っており、2回目です。

皆さん手慣れている様子??





2日目はRNA抽出から逆転写、PCRと盛りだくさんです。

RNA抽出はキットを使います。

試薬を入れたり遠心機を使ったりと作業が多いので、工程を省かないように要注意です。

先生たちも、全員が間違わずに実験を進められるよう必死です。。



4日目、5日目は電気泳動を行い、結果を考察しました。

実験の振り返りはとても重要です。

今回の結果からどんなことがわかるのか、各班で話し合ってもらい、最後に発表しました。


電気泳動の分子量マーカーの見方や、PCRの仕組み、鋳型の違い(DNARNA(cDNA))、組織の差など、たくさんの学びがありました。

    (辻村)



卒業生の活躍

研究室を昨年卒業した大学院生が、自身の姿が新聞に掲載されたと連絡をくれました。

地道に活動できる資質を有した学生でしたので、卒業後の活躍はありそうなものですが、それでも私の研究室を卒業した修士修了の1期生ですので、ことのほか嬉しいニュースでした。


卒業後も何かと連絡をくれ、後輩への研究のアイデアを話し合ったり、彼女が臨んでいる疑問を解く学問領域を紹介したりとやりとりをしています。今後の一層の活躍を祈念しています。

(古本)




堂地区での田んぼウォーキング

 5月6日の竹歳ゼミ(3年生)の時間では、堂地区まで歩き、田植え直後の水田や、麦が植えられている水田などを見て回りました。

堂地区までは、キャンパスから「龍谷の森」を抜けていきます。龍谷の森では、里山の様子や機能について、また、地区を流れる大戸川のそばには水害の歴史などが書かれている説明板もあり、この地域の地理や歴史についても学習しました。

水田では、用水や排水の仕組みがどうなっているか、圃場整備のあるなしでどのように違うか、また環境こだわり農産物などについても、実地を見ながら学びました。

帰りは、農学部堂農場の横を通り、龍谷の森を抜けてキャンパスまで。ちょうど1時間半のウォーキングでした。授業時間の中でこのようなフィールドワークができるのも、瀬田キャンパスのよいところです。(竹歳)

龍谷の森で

大戸川の水害の歴史

麦が実る田んぼと田植え後の田んぼ




資源生物科学科(2023年度から農学科)を志望する皆さんへ⑨ ~果実にβ-カロテンを蓄積するナス~

  ナスの果実は同じナス属のトマトのように、β-カロテンやリコピンのようなカロテノイドをほとんど含みません。そのため、ナスは栄養が少ないというイメージを持たれますが、カリウムや食物繊維、果皮にはポリフェノールなどを含んでいます。ナスを栽培するアジアの国ではビタミンA欠乏症が問題になっている地域があり、今でも多くの子どもが視力を失い、命を落としています。そこで私たちはビタミンA欠乏症の改善を目的に、ヒトが摂取すると体内でビタミンAに変換されるβ-カロテンを果実に蓄積する遺伝子組換えナスを開発しました(大阪公立大学 小泉望教授との共同研究)。本学農学部の植物培養室には全国でも有数規模の人工気象ユニットが備わっており、高照度の光を照射できる高機能型人工気象ユニットを利用して組換えナスを栽培しています。実った果実にどれくらいβ-カロテンが含まれているかについて、ラボラトリー専門助手の山本先生が分析しています。このような研究結果をもとにして、ビタミンA欠乏症の改善に役立てるようなナスの開発を目指したいと考えています。

高機能型人工気象ユニットでの組換えナスの栽培
高機能型人工気象ユニットでの栽培

栽培中のナス
栽培中の組換えナス

組換えナスの断面
左の非組換えナスと比較して、組換えナス(右)の果実はオレンジ色をしている

(植物育種学研究室:三柴)