研究成果が論文として公表されました(植物生命・小野木研)

 黒毛和種は和牛の一種で、霜降りと豊かな風味を特徴とする肉用種です。最近は海外でも「Wagyu」として人気があり、日本の重要な輸出農産物の一つとなっています。


その黒毛和種の品種改良に、近年は遺伝子の情報が利用されています。品種改良は好ましい性質を持つ個体を選抜し、繁殖に用いることで進められます。そのため、おいしい牛肉を効率よく生産するためには、どの個体を選抜するかが重要になります。ただ肉のおいしさや肉量はと畜しないとわかりません。しかしと畜すると子孫を残せません。そのため、生きている間に肉のおいしさや肉量を予測し個体を選抜する必要があります。


この問題を解決するために遺伝子を用います。生物はたくさんの遺伝子を持つため、肉のおいしさや肉量に対しての遺伝子の累積的な(より専門的には相加的な)効果が高い個体を選抜します。この手法はゲノミックセレクションと呼ばれ、現在家畜や作物の品種改良で広く用いられています。


たくさんの遺伝子の累積的な効果の他に、遺伝子には相互作用があるため、遺伝子の組み合わせによっても、おいしさや肉量は変わるかもしれません。もしそうであれば、組み合わせの情報を使うことで、個体の選抜がより正確になるかもしれません。しかしこの「組み合わせの妙」が、おいしさや肉量にどの程度寄与しているのかまだ研究されていませんでした。


今回の研究はこの遺伝子の「組み合わせの妙」が、累積的な効果の1/4から1/3程度、牛肉に関する様々な性質に寄与していることを明らかにしました。これはなかなか無視できない値です。


しかし一方でこの組み合わせの情報を用いても、高い肉量や肉質を備えた個体の予測は、累積的な効果のみを用いた場合と比べて良化しませんでした。この結果は残念ですが、おそらく遺伝子の数が多いため組み合わせの数が非常に多くなり、新しい組み合わせが予測される個体に常に生じるためと考えられました。


今回の結果では「遺伝子の情報を用いて牛の性質を完全に予測し選抜する」というゴールにはたどり着きませんでしたが、今後も研究を続け、より効率的な品種改良の手法につなげていけたらと考えています。


Genomic prediction with non-additive effects in beef cattle: stability of variance component and genetic effect estimates against population size

Akio Onogi, Toshio Watanabe, Atsushi Ogino, Kazuhito Kurogi, and Kenji Togashi

BMC Genomics

First published: 07 July 2021 https://doi.org/10.1186/s12864-021-07792-y


本研究は(一社)家畜改良事業団との共同研究です


(小野木)