食料農業システム実習 in 高島市マキノ町森西地区

 2022年6月25日~26日にかけて食料農業システム実習Aを受講する学生6名と教員2名(一部の行程は3名)が現地実習先の高島市マキノ町森西地区を訪問しました。森西地区はメタセコイア並木から車で5分ほどのところにある集落で、これまで1枚も耕作放棄地を出すことなく約16ha(うち傾斜度1/20以上の棚田は8.4ha)の棚田を維持・保全しておられます。また、獣害対策にも徹底して取り組まれており、高い成果を上げるとともに、個々の農家が環境保全型農業や農泊など様々な新しい取り組みを行っておられる魅力的な地域です。

今回の実習は、集落の共有資源の管理作業に参加しながら、棚田の維持や地域資源を活かした地域活性化について現地の方々の考えを伺い、地域農業の持続可能な発展について考えることを目的としていました。参加した学生は、コロナ禍で学外実習ができない日々が続いたこともあり、貴重な機会に積極的に学ぼうとする姿勢がみられました。

実習ではまず、原木シイタケと無農薬野菜の栽培を行っておられるみなくちファームさんを訪れました。みなくちファームさんでは、現在2名の方を雇用されているのですが、どちらの方も女性で、そのうちの1人は今年の春に龍谷大学農学部食料農業システム学科を卒業したばかりの卒業生で、ゼミの指導教員だった竹歳先生も飛び入りで参加されました。実習に参加した学生たちにとっても、現場で活躍する先輩・卒業生の姿は刺激になった様子でした。

その後、みなくちファームさんがトウモロコシの有機栽培をされている圃場、耕作放棄地になっていた土地を乗馬体験施設として蘇らせようと計画しておられる場所、馬3頭が飼われている厩舎などを水口淳さんに案内して頂きました(写真1、2)。水口さんはこの地域のクヌギの植林地と農地が織りなす景観がとても好きで、この景観を何としても守っていきたいと語られていました。みなくちファームで、次々と新しいことにチャレンジされているのも、地域の景観を守っていくためだと仰っていたのが強く印象に残りました。また、水口さんの奥様も含めて、女性が多く活躍されている様子も大変印象的で、みなくちファームさんの魅力的な雰囲気に関係しているように思われました。

写真1 水口さんの話をメモを取りながら聞く学生

写真2 水口ファームに併設されている厩舎

みなくちファームを後にした一行は、森西集落の棚田地帯へ移動しました。ここからは、集落の役員で、棚田担当の峯森清三郎さんの案内で、集落の棚田の保全、水利、獣害対策の電柵の維持などについて教えて頂きました(写真3)。森西の棚田は圃場整備が行われているため、田んぼの1枚1枚は広く、形も整っており機械での作業が容易ですが、その分、畦畔の法面の部分が大きくなり、除草作業が大変だとのことでした(写真4)。また、この地域はかつて水が乏しい地域であったため、山の向こう側の沢から農業用水を確保するため、明治期に稲山隧道がつくられました(写真5)。この稲山隧道は今も現役で、急な山道を登ってトンネルの出口を見学しました。畦畔の法面の管理、水利、獣害対策など、農地を保全していくためには、集落での共同作業が大変重要であることを学びました。

写真3 電柵の維持管理について解説して下さる峯森さん


写真4 高低差のある畦畔の法面


写真5 明治期に掘られ現役で活躍する稲山隧道

現地見学の後は、その日のお宿、ペンションメタセコイアに移動し、併設されている弓道場をお借りし、大変換気の行き届いた環境で、森西地区の役員の方々とディスカッションを行いました(写真6)。学生からは、様々な地域活性化の意見が出されましたが、特に農閑期の棚田を活用したキャンプというアイディアについては、地区の方々の構想ともマッチし、議論が盛り上がりました。水道やトイレといった課題はあるものの、トライエンドエラーで実施してみてはどうかという前向きな意見も出て、今後の展開が楽しみな状況です。学生の意見に真剣に向き合って下さった役員の方々のおかげで、参加した学生にとっては大変貴重なディスカッションの機会になりました。
写真6 集落の役員の方々と車座になってのディスカッション

翌日は、朝から森西地区の共同作業に参加させて頂きました。区長さんが班ごとの作業の段取りを説明された後(写真7)、学生たちは、そのうち3つの班の作業に参加することになりました。1つ目の班は、農業用水路の集水桝にたまった土砂をスコップで掘り上げる作業です。集水桝の形状から、ユンボ等の重機が使えないため、人力で実施するしかない重労働です。力自慢の男子学生たちがこれにあたり、大いに活躍してくれました(写真8)。2つ目の班は、ユンボ2台とトラックで水路に溜まった土砂を浚渫する班に同行し、機械では除去できなかった雑草を鎌で刈る作業です(写真9)。3つ目の班は、田屋城跡までの登山道の維持・管理作業で、登山道が水路化しないために、横断溝を掘る作業などを行いました(写真10)。実習の翌日の628日には、近畿地方で過去最速の梅雨明けが発表され、連日6月とは思えない猛暑が続いておりましたが、コロナ感染対策と熱中症対策とを両立しながら、作業を体験することができました。

写真7 集落の共同作業前のミーティング

写真8 集水桝の土砂を掘り上げる力仕事


写真9 ユンボで除去できなかった雑草を鎌で刈り取る

写真10 集落の方の指導を受けながら作業する学生(左)

2日間の実習では、現地見学、ディスカッション、集落の共同作業などを体験することができ、座学では得られない貴重な機会となりました。さらには、現地実習だけでなく、事前学習や事後学習などにおいても、貴重な時間を割いて、学生の質問や意見に真摯に向きあい、ご指導して下さった森西地区の皆さまに心よりお礼を申し上げます。

嶋田大作