日経バイオテク オンラインの記事紹介(植物生命・辻村)

 2021106日の日経バイオテク オンラインに、東京大学の有村准教授のグループによる植物のミトコンドリアゲノム編集の記事が掲載されました。

東京大の有村准教授ら、ゲノム標的部位一塩基置換をミトコンドリアでも達成:日経バイオテクONLINE (nikkeibp.co.jp)


この記事中には、私が9月の日本育種学会で発表した「mitoTALENを用いたナスの細胞質雄性不稔遺伝子ノックアウトの試み」も紹介されています。

ゲノム編集技術は、ゲノム中の狙ったDNA配列を正確に改変することができる技術です。

放射線などで突然変異を人為的に誘発し、DNA配列を変化させる技術は、以前より植物育種の分野で用いられていましたが、「狙ったDNA配列」だけを変異させることが難しく、ゲノム編集技術はその点が画期的です。

国内では、本学植物生命科学科の土岐先生が礎を築かれてきました。


植物の細胞には、核ゲノムのほかにもミトコンドリアと葉緑体が独自のゲノムを持っています。

有村先生のグループは、ゲノム編集を行う遺伝子を核に入れ、そこから発現した遺伝子産物をミトコンドリアに輸送させて内部のミトコンドリアゲノムを編集する技術を開発されています。



2019年に発表された「mitoTALEN」では、ミトコンドリアに輸送されたTALEN遺伝子の産物が、ミトコンドリアゲノム中の標的配列(遺伝子など)を切断します。

切断された配列は、末端から分解されたあと、ゲノム中の相同配列を使って修復されます。修復後のゲノムには標的配列が欠損していますので、元々の機能が損なわれます(これをノックアウトと言います)。

一方、記事に掲載されているゲノム標的部位一塩基置換では、シチジンデアミナーゼという酵素を利用して、シチジン(C)をチミン(T)に置換しています。

これによって、標的配列の塩基を変えることができ、より精密なゲノム改変が可能になります(mitoTALECD)。


この技術を利用できる良いモデルに「細胞質雄性不稔」という現象があります。細胞質雄性不稔は花粉が正常に作られないことで自家受粉ができず、種がつかなくなる現象です。

この原因となる遺伝子は、ミトコンドリアゲノムにあることは知られていますが、これまでの技術では、その配列を特定することは困難でした。

そこで私は、ミトコンドリアゲノム編集技術を使って、雄性不稔遺伝子の候補を欠損させようとしています。

この実験で花粉が再び作られるようになれば、候補が本当に原因遺伝子であることが証明されるというわけです。

 

葉緑体やミトコンドリアのゲノムには、光合成や呼吸など植物にとって重要な遺伝子がコードされています。

ゲノム編集技術はこれらを改変できる新しい技術として注目されています。


                                  (辻村真衣)