【植物生命・卒研紹介シリーズ】No. 3 環境生理学研究室

寒い日が続いていますが、 植物生命科学科の各研究室では卒業研究が佳境を迎え、4回生が熱い日々を過ごしています。学科の卒業研究発表会まで残り二ヶ月、各研究室の卒業研究の様子をリレー形式でお伝えしようと思います。植物生命の各研究室ではどんな研究をしているのでしょうか?


「揺れる環境」に植物がどう応答するか​​

 環境生理学研究室(古本)では、「一定ではない環境を植物がどう感じ適応しているか」に着目し、実験をしています。よくある実験環境下では、「光量」も「温度」も一定に保ちますが、実際の野外環境ではこれらは一定ではありません。実験環境下で一定に保とうとしているのは、これらの環境要素が変動する(揺れる)と実験結果やその解釈がややこしくなるからです。一方で、野外の植物はこうした一定ではない環境下で適切に対応し生き抜いています。一定環境で生育させることを前提にしたこれまでの研究では、揺れる環境に適応する植物の能力は過小評価されているかもしれません。

 実際に1日を通じての気温や光量の変化を調べてみると、図1のようになりました。当然のことながら、明け方に一番気温は低く、昼過ぎに最も高くなります。その差は10℃程度です。光量は、もっと短時間で激しく変動します。細かく変動する主因は「雲」です。雲で太陽光が遮られると、大きく光量が低下し、その雲が通り過ぎるとまた光量は復帰します。こうした環境変動は生きていく上での重要な要素ですが、これまであまり研究されていませんでした。




図1 野外での気温(青)と光量(赤)の変化

  ここでは、気温応答性を研究している学生の様子を紹介します。温度変化に応答できるかどうか調べるために、まずは16℃、22℃、28℃の異なる温度で植物を飼育しました。すると、その温度に応じて、植物の形態が「伸びた」のです(図2)。これを「徒長現象」と言います。温度を感じて適切に形態変化に反映させる能力があることを示しています。


図2 日常に起こりうる範囲の温度で育てた植物の形態

 彼の採用している実験手法は、分子遺伝学といわれる手法です。野生型のシロイヌナズナが28℃で伸張する中、伸長しない株を探します。その株を育て種子を収穫し(図3)、その後代種子でも同じように伸長しない性質が遺伝しているかを確認します(図4)。

図3 種子を採取している様子

図4 後代の種子で性質が遺伝しているかどうか確認しているところ


 これらの伸長しない系統では、「気温を感じて伸びる」過程に関係する遺伝子に異常のある変異が起こっていると想定されるので、その変異箇所を遺伝学によって同定します。この学生は、頑張って同定までと意気込んでいますが、単離した変異株の多くについては、次年度の学生が引き継いで担うことになるでしょう。

 同様の方法ですでに単離に成功し、遺伝子の同定を終えた株もあり、これらについては、修士課程の学生が担当し研究しています。原因遺伝子がコードするタンパク質がどのように温度シグナル伝達に関係しているのかを想像し、こうであろうかなど仮説を立てて、証明しようとしています。

 こうしたアプローチはシロイヌナズナという小さく世代が短い植物の利点を最大限に活かした研究方法です。以前この学科に所属していた岡田清孝先生が世界の植物学研究に導入した実験モデル植物です。いずれは、コムギにこうした性質を導入し、収量の増加につながる研究に展開したいと考えています。

(古本)