「科学研究」は、大学や研究所、企業といった世界中の研究機関で行われています。そして、そういった研究活動を支える組織というものも世界中に存在しています。
それらのうち、ヨーロッパではEMBO(European Molecular Biology Organization)が、生命科学・分子生物学といった研究分野を支える組織として有名で、関連分野の研究の振興(各種シンポジウムや、最新の知識・技術習得のためのワークショップ開催、著名な研究論文雑誌発行、さらには各種研究費の管理・配分など)を一手に担っています。
そんなEMBOが開催しているWorkshopのうち、ゲノム編集に関するものがこの年末に開催され、植物生命科学科の土岐先生が共同オーガナイザーとして開催に尽力されました。以下、土岐先生からの開催概要を紹介します。最先端の生命科学研究現場の雰囲気を感じてください!
(別役)
>>>>>>>>>>>>>>以下、土岐先生からの開催概要<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
2021年12月5日から8日の日程で、EMBO Workshop “Plant Genome Stability Change (PGSC) 2020”が開催されました。PGSCは1998年から2~3年おきに開催され、植物のゲノムの安定性の維持機構を研究する基礎研究者と、植物ゲノム編集技術を開発する応用研究者が集う意欲的なワークショップです。
PGSC2020のホームページ(https://meetings.embo.org/event/20-plant-genome)には本ワークショップの開催目的として以下のような文章が書かれています。
About the Workshop
The aim of this meeting is to bring together the scientific community working with plants on subjects around genome stability and modification: DNA recombination and repair, chromosome stability, meiosis, replication, epigenetics and applications in plant breeding and genome engineering.
In a world faced with increasing populations and climatic change, the importance of understanding the fundamental processes used by plants to maintain and repair their genomes is of ever-increasing importance and urgency. These processes underlie both "classical" plant breeding and the development of novel technologies for crop improvement. The great success and rapid implementation of CRISPR/Cas approaches in model and cultivated plants underlines the importance of this meeting. Increasing fundamental knowledge on DNA repair and plant genome stability and development of novel biotechnological approaches will lead to optimized applications for crop plants such as cereals and vegetables.
私は2016年に本シンポジウムを湘南で開催し、今回はco-organizerとして開催に関わりましたが、コロナ禍で2020年開催予定だったのが1年延期になり、さらにオランダのライデンで通常開催の予定がオンライン開催になり、local organizerはかなり苦労されたと思います。
一方、オンライン学会の開催システムもこの1-2年でかなり進歩し、参加者はバーチャルで参加証を受け取り、会場のドアを開けて会場に入り講演を視聴し、休憩時間は別室で研究者と交流できるなど、リアルな開催にかなり近いシンポジウムが開催でき、シンポジウムは盛況でした。日本時間の夜8時からの開催のため睡眠不足になりましたが、久しぶりに国際ワークショップへの雰囲気を楽しむことができました。
具体的な発表内容についてはclosed symposium のため詳しくは報告できませんが、例えば、細菌から植物細胞に運ばれたT-DNAとよばれる一本鎖DNAが、植物ゲノムに組込まれる際に働く新たな因子が解明されたという発表がアグロバクテリウムのセッションである一方、ゲノム編集のセッションで組込みに働く因子の抑制により、T-DNAのランダム挿入が抑えられ、ジーンターゲッティングの効率が向上したという発表があるなど、基礎から応用まで一気通貫のワークショップならではの、ワクワクする時間でした。
次回は東欧の某国で開催する方向で話が進んでいますが、やはりリアルな開催が可能になり、世界中の研究者と直接ディスカッションしたいと願ってます。
EMBO Workshopについて
EMBOはEuropean Molecular Biology Organization(欧州分子生物学機構)という組織でヨーロッパにおける分子生物学の発展に寄与してきており、その活動はヨーロッパに留まらず、グローバルなものとなっています。またEMBOが発行するEMBO Journal誌(Impact Factor 11.598 (2020))は,分子生物学およびその関連分野における重要な論文が掲載される雑誌となっており、EMBOが開催するEMBO Workshopは分子生物学分野をリードする科学者が集う国際研究集会として有名です。