別役らによる以下の総説論文が公開されました。
Toyota M, Betsuyaku S. Plant Cell Physiol. 2022 Sep 27:pcac135. doi: 10.1093/pcp/pcac135.
顕微鏡を用いた観察手法は、顕微鏡そのものの技術開発と蛍光タンパク質の発見・改良によってここ20~30年余りの間に飛躍的に発展してきました。最近では単なる「観察」ではなく、「イメージング(imaging)」という言葉で呼ばれるようになってきています。
蛍光タンパク質を用いることの利点の一つは、肉眼では見えないような細胞状態の変化や細胞内のタンパク質分子を見ることができるようになることです。そしてもう一つの利点が、生きたままの組織を用いて非破壊的に観察することができることです(生きたまま観察することを「ライブイメージング」と言ったり、「in vivoイメージング」と呼んだりします。「in vivo」とは「生体の中で」といった意味です)。電動化した顕微鏡をコンピューターと組み合わせることで、一定期間の定点観察を自動で行うことも可能となっています。つまり、みなさんがスマホカメラでやるようなタイムラプス撮影を生き物の観察に用いることができるようになっているのです。
生物の状態は刻一刻と変化しています。植物においては、病原菌感染や昆虫食害、物理的な傷害などを受けた時には、植物はそれらストレスに対してダイナミックに応答して身を守ろうとしていることが知られてます。ストレスを受けた直後から数日間にわたってさまざまな応答が起き、それら応答は刺激を受けた場所(病原菌が感染した場所、昆虫が食べた場所、傷害を受けた場所、etc.)から全身的に広がっていくことも知られるようになってきています。つまり、植物のストレス応答は、「時間」的にも「空間」的にもダイナミックに変化しているのです。この仕組みをより深く理解することで、農作物のストレス耐性を高め、収量アップや減農薬などにつなげることも出来るようになるかもしれません。
植物のストレス応答のような生命現象の時空間的変化を詳細に捉えて、その仕組みを正しく理解しようとする研究には、最新のイメージング技術がとても便利なツールとなります。in vivoイメージングを用いた植物の病原菌感染や昆虫食害、傷害に対するストレス耐性研究の現状と将来の方向性に関して、植物の病原菌応答を研究している別役と、昆虫食害や傷害に対する植物の応答を研究しておられる豊田先生(埼玉大)との共著で総説論文としてまとめたのが上の論文になります。
百聞は一見に如かず。生物学の世界では「見る」ことによって、誰も想像さえしなかったことが次々と明らかにされてきました(例えば、有名な「細胞説」へと至る過程もそうです)。植物のストレス応答に限らず、イメージング技術は今後さらに重要度が増すと思われます。興味がある人はぜひ読んでみてください。
(別役)
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