Frontiers in Plant Scienceという雑誌に、以下の研究成果論文を発表しました。
Tomoi T#, Tameshige T#, Betsuyaku E, Hamada S, Sakamoto J, Uchida N, Torii UK, Shimizu KK, Tamada Y, Urawa H, Okada K, Fukuda H, Tatematsu K, Kamei Y and Betsuyaku S*.
狙った細胞の機能を思い通りに操作する...多細胞生物のからだを構成している任意の一細胞で、興味ある遺伝子の発現を思った通りに制御することは生命科学研究者の一つの大きな夢だと思います。植物において、そんな夢を可能にする技術を確立しました。
最近、光を使って生物をコントロールする「光遺伝学」という技術が急激に進歩しています。光を使うと、波長の違いによる制御はもちろん、微細加工にも使われるような細やかな制御が可能です。この研究では、一細胞を狙って赤外光を当てることでその細胞のみで目的の遺伝子を発現させることを可能にしました(ヒートショックと呼ばれる現象を利用。温度生物学もノーベル賞受賞など、盛んになってきています)。
この研究成果を発表するまでには大きな苦労がありました。2010年にこの成果の元になるアイデアに出会ってその利用を考えたのですが、実際にやってみると自分のアイデアが典型的な「机上の空論」であったことに気づいて全くうまく行きませんでした。その後、何度も諦めかけましたが、その都度、偶然の成果やいろんな人との出会いがあって、13年経って、ようやく思い通りに操作できるところまで辿り着きました。「偶然の成果」と書きましたが、諦めないで、正しく、たくさんの失敗をした結果、得られた「偶然」だと感じます。
ちょうど今週の生命科学実習で、3回生に「(特に若い学生さんの実習などでは)綺麗なデータを得ることよりも、間違えた・失敗した時にその原因をよく考えることの方が大事ですよ」という話をしました。研究のみならず、トライ&エラーはとても大切です。研究室に所属する前に、この実習でそんな体験を数多くしてほしいと学科教員は考えています。
今回の研究成果の元となったのは、10年前に僕が初めて担当した学生さんの修士研究でやってもらった実験です。当時、注目していた目的のものではなく、その対照区(偶然に一般的ではないものを用いた)として用意したものが実は一番良かった、という発見に基づいています。期待通りにならなかったことでその学生さんはがっかりしたかと思いますが、きっちり丁寧な実験をしてくれたおかげで、ただの対照区でしかなかったものが、実はとても優れていたことを見出せました。うまくいかなかった時に、なぜ?としっかり考えたおかげです。
それでも失敗続きだと気持ちも続きません。そんな時に助けてくれるのは仲間の存在です。10年に渡って研究を続けていく間、たくさんの優れた共同研究者に恵まれましたし(この論文の共著者の数を見てください)、折れそうな心も支えてもらえました(途中、折れていたかも、、)。また、サポートしてくれたいろんな研究費プログラムのおかげでもあります。
論文として発表できましたが、実はこれは13年前の当初の目的の技術が確立出来ただけです。この技術を使ってようやく当初の目的に取り組むことができます(既に研究室の学生さんが取り組んでくれています)。技術そのものもまだまだ磨く余地があります。引き続き頑張っていこうと思います。
(失敗談の紆余曲折は載っていませんが)興味のある方は是非読んでみてください。
(別役)