作物の姿かたちや性質は、当然ながら実際に栽培してみないとわかりません。1個体や2個体なら栽培することは容易ですが、品種改良では多数の個体を栽培し、その中から良いものを選ぶ必要があります。さらに、適応できる環境を見極めるためには様々な地域で栽培を繰り返す必要があり、より時間がかかります。そこで遺伝子の情報などを用いて、その作物がどのような姿かたち・性質をしているか予測することで、栽培にかかる時間を削減しようとする手法「ゲノミック予測(genomic prediction)」が提案されています。
今回の研究では、ゲノミック予測をより正確なものにするために、遺伝子の情報に加えて、糖やアミノ酸などの代謝産物のネットワーク情報を効率よく利用する方法を提案しました。より具体的には、シロイヌナズナのバイオマスを予測するために、バイオマス生成に関与する350代謝産物、336反応の化学反応式の情報を、遺伝子情報による予測を補助するために用いました。これら異なる情報を統合するために、ベイズ統計に基づく階層的モデリングを開発しました。様々な検証の結果、まだ概念実証(proof of concept)の域を出ていない研究ではありますが、このような代謝産物ネットワークの情報が、生物の予測に役立つ可能性を示すことができました。
生物がどのような姿かたち・性質を持つか予測することは、品種改良のみならず、ヒトの病気の予測にも役立ちます。今後も遺伝子情報をはじめとして、様々な情報を様々な手法で用いて、より正確に予測する方法を探っていきたいと考えています。
論文
Onogi A. “A Bayesian model for genomic prediction using
metabolic networks”. Bioinformatics Advances, 2023, 00, vbad106.
https://doi.org/10.1093/bioadv/vbad106