牧地区でのカキ調査

 以前、このブログで食料農業システム学科の実習の記事で、龍谷大付属農場のある牧地区の干し柿つくりのことが出ていましたが、この干し柿用の果実を穫るのに、牧地区では『田上(たなかみ)』と呼ばれる特定の系統を栽培しているとのことで、地域果樹資源探索の観点から、果樹園芸学研究室も牧のカキ資源についての調査を始めました。

地区農事組合「ふぁ~む牧」の古市組合長や、牧の歴史や民俗にくわしい真光寺先代住職の東郷さんにお話をお聞きしました。特に東郷さんには、地区内の『田上』樹をご案内いただき、山の上にある地区で最も古い樹にも連れていっていただきました。

くわしいところは本年度の研究室の卒論研究でまとめたいと思いますが、『田上』の大きな特徴として、種子がほとんど形成されません。これは干し柿つくりには大変有利な形質です。渋柿の全国品種である『西条』との類縁が推測される伝承があり、果実の大きさおよびアウトラインは『西条』に似ています。『西条』は広島県発祥で、中国地方で大産地を形成するメジャーな干し柿用品種ですが、種子を形成します。ただ、「無核西条」といった変異系もあるらしく、『田上』イコール無核西条の可能性もあります。『西条』は果実に4本の縦溝が入る特徴がありますが、『田上』の果実の溝は『西条』より浅いように思います。

牧地区の『田上』十数本を見ましたが、いずれも接ぎ木結合部があり、すなわち、元の樹から穂木を取って接ぎ木した樹です。地区で最も古い樹というのも接ぎ木されていました。穂木を取った元の樹がどこにあったのかは不明で、岡山県から『岡山西条』なる品種を導入したという言い伝えがあるらしいので、古い時代に他の地方から穂木が持ち込まれたのかもしれません。地区一番の古木は背が高く、100歳樹と言われても不思議でないくらいに思えました。その樹の接ぎ木がなされたのは明治時代、もしかしたら江戸時代ではないでしょうか。

「田上のたねなしカキ」と称して販売することもあったようです。しかし、本格的に専業果樹園経営をするようなものではなく、コメ農家が、畦の崩れを防ぐために水田の排水口(=尻水門[しりみと])近くに植え、成った果実は各戸で吊るして自家利用していました。

今、牧で栽培されているカキはいずれもほぼ放任です。甘柿は『富有』、干し柿用の渋柿が『田上』、熟し柿(樹上で渋が抜けるまで軟化させる)用の渋柿が『てんだい(漢字不明)』、これに『寺柿』と呼ばれ8月から可食という極早生の甘柿(滋賀県発祥の早生甘柿品種『西村早生』の可能性あり)が少数植えられています。『田上』と『てんだい』の果実品質はなかなかのもので、とくに『田上』はたねなしという特徴があります。摘果して果実をもっと大型化させる必要があるかもしれませんが、世の中には干し柿の好きな人が意外に多く存在し根強い需要がありますから、地域産品としての価値は十分にあると思います。

(果樹園芸学研究室 尾形凡生)


付属農場横の大戸川の土手にも『田上』が植えられている。


『田上』の果実。ほぼ放任なので「成り年」には小さな果実がたくさんつき、「不成り年」には果実があまりつかない隔年結果現象がはげしい。


『田上』の古木を指さす東郷さん。今はスギが林立しているが、かつては棚田であったという。


ほとんどの樹に、このような接ぎ木の形跡が残る。


多くの果実をつけた『田上』。



現在、地区婦人会が2000果実ほどの干し柿を毎年つくり、グループ内で販売している。剥皮した『田上』果実2個をシュロの葉でつなぎ、硫黄で燻蒸して表面を殺菌したのち、干し棚につるす。