香川ゼミ恒例の北海道調査実習を行いました

 2025年2月28日

2025年2月17日から21日まで北海道十勝地域で調査実習を実施しました。参加したのは3回生16名と教員1名です。これまでは3泊4日で実施してきましたが、今回は学生の希望で4泊5日の日程となりました。

今回の最低気温はマイナス17度でした


今回の主なテーマは以下のようなものです。

① 農家の法人化の経緯

② 六次産業化への取り組みの経緯

③ JA以外の集出荷業者の存在意義

いわゆる畑作4品(馬鈴薯、小麦、豆、ビート)の輪作体系をやめて、トウモロコシの栽培を開始し、併せて自社でポップコーンの加工にも取り組んだ農業経営。作物転換の経緯や六次産業化への取り組みの契機等を教えていただきました。自社の強みや弱みの把握、外部環境分析をしっかり行ったお話しはとても興味深いものでした。学生からは「SWOT分析そのもの」という意見が聞かれました。

巨大農機具、一台6000万円

ポップコーンをいただきながらヒアリングしました

こういうグッズまで揃えておられました

土づくりを基本とした持続可能な肉牛飼育を大規模に行うという珍しい事例。通常はトレードオフだと考えられている持続可能性と多頭飼育を両立するための苦労や牛肉をブランド化するための工夫について教えていただきました。

群管理の飼育


大規模畑作地域のJA。農業経営の規模が拡大すると、いわゆる「農協離れ」を選択するようになりがちなのですが、十勝地域では生産規模が大きくなると販売まで手掛けることが難しくなり、逆にJAとの付き合いを深める経営が少なくないそうです。これまで考えてきたことと異なる事実を知ることができ、学生は感心していました。

ジャガイモの選果場を見学するためにヘルメット着用
加工施設の撮影はNGでした(残念)

自経営の牛乳を加工し、ミルクジャムを販売している農業法人。プロの経営哲学を聞かせていただきました。同経営が開設している農家レストランでランチをいただきながらヒアリングをさせていただきました。マーケティングの授業で習うような事柄を見事に実践しておられました。

美味しい牛乳をいただきました

同法人が経営するカフェでランチ

同法人が経営するホテルにて
寝転んで見上げると空が丸く見える

JA以外の集出荷業者を2社訪問しました。そうした業者が存在することで農家の行動がどう変わるのか、そうした業者は農産物を集荷するためにどんな苦労や工夫をしているのかをお聞かせいただきました。

農家との信頼関係が大切とのお話でした

小麦を使うパン屋と連携しながら小麦農家を支援しておられました

同じ地域にあり、経営規模も同程度である2つの農業経営(一方は家族経営、他方は法人化している経営)に「何故、法人化しないのか、何故、法人化したのか」をお聞きしました。雇用労働力の有無、作物生産に特化するか加工も行うかが重要な基準になるようです。また、都府県の場合、複数農家が生産組織を形成し、それが法人化するというのが一つのパターンですが、北海道の場合、個別経営が基本なので、大規模化しても法人化する必要性をさほど感じていないのではないかと推察されました。また、作物毎の経営収支の実態や資金調達・投入の考え方についても教えていただきました(通常は、このようなデータは教えていただけません)。会計やファイナンスを担当している教員としては授業内容を具体化していただいたようで本当にありがたかったです。

表示はできませんが、詳細な財務データを見せてくださいました


メルカリを使って小豆を売っておられます
送料が安いからとのこと
パッケージもメルカリ便に合わせているそうです

肉牛飼育から精肉、加工品販売まで一貫して手掛ける法人。ホルスタイン雄の去勢牛、F1、黒毛と様々な牛肉を取りあつかっておられます。日本人は「サシの入った霜降り牛肉を好む。そうした中で赤見のホルスタイン肉のおいしさを伝えるのは簡単ではなかったが、健康志向が広まれば必ず売れるはず」と確信していたそうです。市場分析の成果です。

ウエルカムボード、感謝です

経営の変遷・展開の経緯を聞かせていただきました

完全装備で加工場の見学

マイナス50度の急速冷凍室

いつも思うのですが、現場の方々は授業で解説しているような理論や概念を実に巧みに使っておられます。そうと知らなくとも結果としてそれらの理論・概念を活用しています。学生達はそのことに本当に感心していました。

息抜きでそり遊び

手が冷たい

今回の調査は帯広市経済部商業労働課、一般社団法人十勝うらほろ樂舎の皆様に全面的に協力していただきました。本当にありがとうございました。


(文責:香川)








国外研究成果が論文になりました

 

国外研究成果が論文になりました

ミシガン州立大学(MSU)園芸学科ポストハーベスト研究室で行った研究結果がJournal of Agricultural and Food Chemistryに掲載されました。

Fruits Produce Branched-Chain Esters Primarily from Newly Synthesized Precursors. 
Journal of  Agricultural and Food Chemistry, 2025, 73, 4196−4207. 
Philip Engelgau, Sumithra K. Wendakoon, Nobuko Sugimoto, and Randolph M. Beaudry*


本研究は果物の細胞内でのエステル生成経路に関する研究で、今回は果物の分岐鎖エステル生成は新たな経路の前駆物から供給されることが明らかになりました。これらの生化学的な研究は、今後の青果物の品質向上だけではなく、生産側にも高品質な青果物を栽培するためにも役立つのではないかと思います。

Wendakoon S.K.

農業体験学習に関する調査・研究の地域報告会

 

2025年1月28日に奈良市立平城小学校で、地域の方々と小学校の先生方に対して、農業体験学習に関する調査研究の成果報告会を実施しました。地域農業・環境経済学研究室では、奈良市立平城小学校に隣接する水田で実施されている小学生による農業体験学習の調査実習を行っています。こちらの水田では、所有者の農家の協力を得て、2010年から平城小学校5年生の全児童が田植えや稲刈りの体験学習を行っています。農業体験学習は、平城中学校区地域教育協議会が主催するイベントとして実施され、ここ数年は、奈良市立あやめ池小学校も参加しています。

当研究室では、2022年度からこの取り組みに参加するようになりました。具体的には、農業体験学習をすることによって、児童の農業やそれが作り出す自然環境への興味関心、地域への愛着がどのように変化するのかを調べています。2022年度以降、歴代の4回生がこの研究を引き継ぎながら発展させており、今年度は今春から奈良県の県立高校で農業科の教員として勤務することが内定している鈴木聡悟さんが中心となり取り組んでくれています。この記事では、先日の報告会の様子を報告するにあたり、当研究室の1年間の取り組みを紹介したいと思います。

今年度からは、田植え体験に先立って行われている事前学習に、当研究室の学生が出向き、食と農そして農業の多面的機能について出前授業を行いました。具体的には2024527日にあやめ小学校で、コンビニのおにぎりが何粒のお米でできているのか、実際に数えてみる動画を用意したり、児童が食と農について関心を持てるよう工夫して授業を行いました。

屋内, 天井, 人, テーブル が含まれている画像

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写真1.小学生の興味関心を引き付けるよう工夫された鈴木さんの出前授業

 続いて、6月3日(あやめ池小学校)と4日(平城小学校、平城こども園)には田植えが行われました。5年生の児童が、クラスごとに水田を訪れ、約45分の授業時間で、地域教育協議会の方々の指導の下、自らの手で苗を植えていきます。児童は裸足で田んぼに入りますが、中には「気持ちが悪い」となかなか田に足を踏み入れることのできない児童もいました。ところが、多くは帰るころにはすっかり慣れて、先生が終了を告げてもなかなか田んぼから上がってこないほど楽しんでいる児童も見受けられました。 

砂浜にいる人々

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写真2.地域教育協議会の方々とともに田植え体験のサポートをする当研究室の学生 

また、今年度からは、当研究室の提案で、田植え体験の際に生き物観察をすることになりました。水田の中をたも網ですくい網に入った生き物を飼育ケースに入れて観察するというシンプルな内容でしたが、ひとすくいするだけで、カブトエビ、ホウネンエビ、ガムシなど沢山の生き物が網に入り、児童のみならず大人も目を輝かせて楽しむ様子が見られました。  

水の中を歩く人々

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写真3. 田植えの際の生き物観察の様子

稲刈りは、9月30日に朝から平城こども園、平城小学校5年生3クラス、そしてお昼をはさんであやめ池小学校3クラスと丸1日を使ってのイベントとなりました。当研究室からは、学生6名に加えて卒業生2名が参加してくれました。地域教育協議会の方が鎌を使って稲を刈る方法を指導し、当研究室の学生たちがサポートにまわりました。稲刈りでも、当研究室の提案により、生き物観察を実施しました。捕虫網でバッタやトンボを捕まえることに加えて、虫見板を用いて、数ミリの世界の生き物を観察しました。株もとに虫見板を当てて穂を揺すると数十匹の虫が落ちてきます。普段意識しなければ見ることができない微小な生き物の世界を観察してもらいました。

  

草の上にいる子供たち

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写真4.鎌による稲刈りを安全に注意しながらサポート

 

 

草の上に座っている子供たち

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写真5.虫見板を用いた生き物観察

また、稲刈りの後、10月24日には小学校で事後学習の出前授業を行いました。稲刈りの際に刈り取った一株に幾つの穂がついていて、それぞれに何粒のお米がついているのかを、班ごとに分かれて数え、分げつの仕組みなどについて学びました。

 

レストランのテーブルに座っている人たち

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写真6.事後学習の出前授業

こうした取り組みを通じて、4回生は卒業研究として児童へのアンケート調査で子供たちの食や農、生き物への興味・関心、地域への意識などがどのように変化するのかを調べました。また、3回生は、地域の方々や小学校の先生方など、農業体験学習を運営する方々にインタビューを実施し、この取り組みがより効果を高めるためにはどうすれば良いのか、方策を研究しました。


机の上に座っている人々

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写真7.卒業研究について発表する4回生

レストランのブースに座っている人たち

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写真8.グループ研究を発表する3回生

1月28日の報告会では、その研究成果をそれぞれ発表し、地域の方々、小学校の先生方と意見交換を行いました。農業体験学習プログラムの内容について学生らが提案を行い、プログラムの一部分ではありますが学生が実施を担当し、その効果や課題について調査研究し、研究結果を地域の方々や先生方と共有し、次年度以降の改善につなげていくというプロセスを経験しました。学生たちは責任感とやりがいを感じながら取り組んでくれ、教員の私も緊張する場面が多々ありましたが、1年間やり遂げた後には、中心となって関わった学生たちの成長を感じました。大学において実施する地域での調査研究実習の理想形に一歩ずつ近づきつつあると感じています。貴重な学びの機会を提供頂いている小学校の先生方、地域の方々に感謝しつつ、来年度以降も発展させていきたいと考えています。 

嶋田大作