農業体験学習に関する調査・研究の地域報告会

 

2025年1月28日に奈良市立平城小学校で、地域の方々と小学校の先生方に対して、農業体験学習に関する調査研究の成果報告会を実施しました。地域農業・環境経済学研究室では、奈良市立平城小学校に隣接する水田で実施されている小学生による農業体験学習の調査実習を行っています。こちらの水田では、所有者の農家の協力を得て、2010年から平城小学校5年生の全児童が田植えや稲刈りの体験学習を行っています。農業体験学習は、平城中学校区地域教育協議会が主催するイベントとして実施され、ここ数年は、奈良市立あやめ池小学校も参加しています。

当研究室では、2022年度からこの取り組みに参加するようになりました。具体的には、農業体験学習をすることによって、児童の農業やそれが作り出す自然環境への興味関心、地域への愛着がどのように変化するのかを調べています。2022年度以降、歴代の4回生がこの研究を引き継ぎながら発展させており、今年度は今春から奈良県の県立高校で農業科の教員として勤務することが内定している鈴木聡悟さんが中心となり取り組んでくれています。この記事では、先日の報告会の様子を報告するにあたり、当研究室の1年間の取り組みを紹介したいと思います。

今年度からは、田植え体験に先立って行われている事前学習に、当研究室の学生が出向き、食と農そして農業の多面的機能について出前授業を行いました。具体的には2024527日にあやめ小学校で、コンビニのおにぎりが何粒のお米でできているのか、実際に数えてみる動画を用意したり、児童が食と農について関心を持てるよう工夫して授業を行いました。

屋内, 天井, 人, テーブル が含まれている画像

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写真1.小学生の興味関心を引き付けるよう工夫された鈴木さんの出前授業

 続いて、6月3日(あやめ池小学校)と4日(平城小学校、平城こども園)には田植えが行われました。5年生の児童が、クラスごとに水田を訪れ、約45分の授業時間で、地域教育協議会の方々の指導の下、自らの手で苗を植えていきます。児童は裸足で田んぼに入りますが、中には「気持ちが悪い」となかなか田に足を踏み入れることのできない児童もいました。ところが、多くは帰るころにはすっかり慣れて、先生が終了を告げてもなかなか田んぼから上がってこないほど楽しんでいる児童も見受けられました。 

砂浜にいる人々

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写真2.地域教育協議会の方々とともに田植え体験のサポートをする当研究室の学生 

また、今年度からは、当研究室の提案で、田植え体験の際に生き物観察をすることになりました。水田の中をたも網ですくい網に入った生き物を飼育ケースに入れて観察するというシンプルな内容でしたが、ひとすくいするだけで、カブトエビ、ホウネンエビ、ガムシなど沢山の生き物が網に入り、児童のみならず大人も目を輝かせて楽しむ様子が見られました。  

水の中を歩く人々

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写真3. 田植えの際の生き物観察の様子

稲刈りは、9月30日に朝から平城こども園、平城小学校5年生3クラス、そしてお昼をはさんであやめ池小学校3クラスと丸1日を使ってのイベントとなりました。当研究室からは、学生6名に加えて卒業生2名が参加してくれました。地域教育協議会の方が鎌を使って稲を刈る方法を指導し、当研究室の学生たちがサポートにまわりました。稲刈りでも、当研究室の提案により、生き物観察を実施しました。捕虫網でバッタやトンボを捕まえることに加えて、虫見板を用いて、数ミリの世界の生き物を観察しました。株もとに虫見板を当てて穂を揺すると数十匹の虫が落ちてきます。普段意識しなければ見ることができない微小な生き物の世界を観察してもらいました。

  

草の上にいる子供たち

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写真4.鎌による稲刈りを安全に注意しながらサポート

 

 

草の上に座っている子供たち

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写真5.虫見板を用いた生き物観察

また、稲刈りの後、10月24日には小学校で事後学習の出前授業を行いました。稲刈りの際に刈り取った一株に幾つの穂がついていて、それぞれに何粒のお米がついているのかを、班ごとに分かれて数え、分げつの仕組みなどについて学びました。

 

レストランのテーブルに座っている人たち

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写真6.事後学習の出前授業

こうした取り組みを通じて、4回生は卒業研究として児童へのアンケート調査で子供たちの食や農、生き物への興味・関心、地域への意識などがどのように変化するのかを調べました。また、3回生は、地域の方々や小学校の先生方など、農業体験学習を運営する方々にインタビューを実施し、この取り組みがより効果を高めるためにはどうすれば良いのか、方策を研究しました。


机の上に座っている人々

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写真7.卒業研究について発表する4回生

レストランのブースに座っている人たち

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写真8.グループ研究を発表する3回生

1月28日の報告会では、その研究成果をそれぞれ発表し、地域の方々、小学校の先生方と意見交換を行いました。農業体験学習プログラムの内容について学生らが提案を行い、プログラムの一部分ではありますが学生が実施を担当し、その効果や課題について調査研究し、研究結果を地域の方々や先生方と共有し、次年度以降の改善につなげていくというプロセスを経験しました。学生たちは責任感とやりがいを感じながら取り組んでくれ、教員の私も緊張する場面が多々ありましたが、1年間やり遂げた後には、中心となって関わった学生たちの成長を感じました。大学において実施する地域での調査研究実習の理想形に一歩ずつ近づきつつあると感じています。貴重な学びの機会を提供頂いている小学校の先生方、地域の方々に感謝しつつ、来年度以降も発展させていきたいと考えています。 

嶋田大作