地域の遺伝資源の保存と活用


黒豆というと,近畿では丹波黒大豆を思い浮かべることでしょう.種皮が黒い色をしたマメは他にもいろいろあり,沖縄県の宮古諸島で栽培されている「宮古島黒小豆」もその一つです.沖縄では今年は621日に梅雨明けが宣言されたようですが,その梅雨の明けた沖縄県の宮古島に黒小豆の調査に行ってきました.資源生物科学科では,多様な遺伝資源の特性を評価し,その有効利用に関する研究も一つの柱にしています.地域特産農作物の遺伝資源としての保存は,それを活用しなければ困難になりますし,一方で,うまく活用すれば地域の活性化にもつながります.この黒小豆は,「アズキ」と呼ばれていますが,植物学的には「ササゲ」です.宮古島では,「ふきゃぎ」(「ふちゃぎ」とも呼びます),ぜんざい,煮物,小豆飯などとして島民に親しまれていますが,生産量は必ずしも多くなく,安定生産できないので価格はかなり高値です.茎葉部はサトウキビ畑の緑肥としてすき込まれることもあり,貴重な有機物資源にもなります.しかし,最近では,黒い種皮のインゲンが「宮古島の黒豆」として直売所などでも販売されるようになっています.草型も栽培方法も異なるので,両者の違いを生産者はちゃんと理解していますが,流通関係者や観光客の中ではその異同がかなり曖昧になっていることを私たちはこれまで指摘してきました.「宮古島黒小豆」は一般に3月に播種してこの時期に収穫します.また,以前は6月に播種して秋の十五夜用のふきゃぎに利用する栽培体系もあったようですが,台風の影響が大きいので最近は減っているようです.今回の訪問では,この6月播種をしてもらった生産者の圃場を調査してきました.島人が言うには,昔から島が呼んでいる人しか島には来ないそうです.今回,宮古島が私を呼んでくれたのではと思っています.夜にはお世話になっている生産者ご夫婦と美味しい島料理を楽しむこともできました.この黒小豆,近くの多良間島での生産も多いので,次回は多良間を訪ねたいと思っています.人より牛の方が多い島のようです.この島が呼んでくれることを楽しみに,それまでは採集してきた種子のポリフェノールの分析をして待つことにします.


text & photos: Hiroyuki Daimon