「地学実験」-野外実習と天体観測-

植物生命科学科と資源生物科学科では、中学校教諭一種(理科)と高等学校教諭一種(理科)の教員免許状の取得が可能です。農学部専攻科目「地学実験」(担当教員:多賀先生)は、主に理科の教員免許取得に向けて勉強する学生が受講します。今年度の「地学実験」で行った野外実習と天体観測の様子の一部を紹介します。

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「地学実験」では例年、滋賀県内において2回の野外実習を行います。実際に野外に出て実態を観察し、考察することで、実験実習で学んだ地学に関する理解を深めるとともに、理科の教員としての科学的な素養を身につけます。

1回目の野外実習では、湖南市の野洲川で長鼻類(ゾウ)と偶蹄類(シカ)の足跡化石の観察を行いました。このゾウはアケボノゾウと呼ばれる小型のものです。野洲川河床には鮮新~更新世の古琵琶湖層群が広がっており、240260万年前の足跡化石や植物の化石が1988年に見つかっています。あいにく今年度ははっきりとした足跡化石を見つけることが難しかったのですが、地表の様子を慎重に観察しました。

野洲川河床で見られるゾウの足跡化石(左)とシカの仲間の足跡化石(右)写真は昨年度のもの

また、河川敷では泥岩と砂岩の地層も観察することができます。湖南市近辺の野洲川は、地層が大規模に露出している貴重なエリアです


野洲川河床を後にして、甲賀市水口町の「みなくち子どもの森」へ移動し、自然館館長の小西さんに案内をして頂きながら野外観察を行いました。

「みなくち子どもの森」では古琵琶湖層群(三重県から滋賀県にかけて分布する湖成層)が見られます。古琵琶湖層群には130以上の火山灰が知られており、この場所で見られるものは虫生野(むしょの)火山灰と呼ばれるもので、およそ230万年前に噴火した、遠くの中部地方の火山から飛んできた火山灰です。下の写真のように、火山灰層は灰色、泥岩層は黄土色をしています。

噴火によって堆積した火山灰と、川によって流されてきた泥が交互に堆積しており、かつてこの場所は琵琶湖の底だった(!)ことが推測できます。

実際にハンマーで地表をすこし削り取ってみると、砂の感触が明らかに違うことが分かります。間近で古琵琶湖層群を観察することができました。

また、火山灰で10円玉を磨くと錆が取れてピカピカになります。「磨き砂」として虫生野火山灰が日常的に使用されていたこともあったそうです。


2回目の野外実習では、NEXCO西日本 様のご厚意によって、新名神高速道路の工事現場で、大津市の田上山の花崗岩の露頭を観察させて頂きました。田上山は標高400600メートルで、龍谷大学農学部からはよく見える山です。

工事現場ではヘルメットの着用が必須です

7400万年前のものと推察される田上山の花崗岩の露頭

花崗岩は、火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)の一種で石英・長石・雲母を主成分とする代表的な岩石のひとつです。巨大な花崗岩の露頭を間近で観察できる絶好の機会です。

実際にハンマーで削ってみると、層の色合い(=風化度合い)によって花崗岩の硬さが異なることが分かります。砕いた岩石から、花崗岩を構成する石(鉱物)を分別します。色や形状、硬さに注視しながら、皆、真剣に観察を行いました。


次に、大津市大石富川町の「富川磨崖仏」に移動し、中世期ジュラ紀頃に形成された付加コンプレックスを観察しました。この場所は、工事現場で見たのと同じ花崗岩と、中生代ジュラ紀付加コンプレックスの堆積岩との境界にあたります。堆積岩に7400万年前に花崗岩が地下で貫入した場所で、堆積岩に花崗岩のマグマが入り込んだ、岩脈も観察できました。

泥と砂とが交互に堆積してできた堆積岩(右下

野外実習を終えた後のレポートには、実際に化石や地層を見て触れることの重要性を実感した、という感想が多く見られました。普段は見落としてしまいがちな身近な所にも『地学』の教材は豊富にあります。2回の野外実習を通じて、実験実習とは異なるフィールドワークならではの学びを得たのではないでしょうか。

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また、「地学実験」では実験後の56講時に天体観測の実習を行います。天体望遠鏡の扱い方を習得して、天体の見え方を理解し、最終的には生徒に天体観測を指導できるようになることを目標とします。


この日の夜は天候に恵まれ、月、金星、木星、土星を観察することができました。それぞれの天体が見える時間帯でしか観察はできないため、操作における手際の良さが求められます。天体望遠鏡の扱い方は慣れるまでは難しいですが、その分上手く観察できた時の感動はひとしおです。教師になった際には、この感動を生徒さんに伝えてくださいね。

(中田)