土壌のまわりの物語 「丹波の黒」


 大河ドラマで「麒麟が来る」が始まりました.戦国武将の明智光秀を主人公とした物語です.一般には主君である織田信長に反旗を翻した「裏切り者」の悪名高い光秀ですが,光秀が治めていた京都・福知山の地では城下町を開拓し、善政を布いた領主として慕われている(福知山市ホームページ)そうです.この福知山市には,近畿には珍しい「黒ボク土」があると聞き,訪ねてみました.「黒ボク土」というのは,一般に火山灰が母材となった土壌で,有機物が多く蓄積するため「真っ黒」に見えます.近畿圏には火山が少ないので,あまり見かけません.福知山市の「夜久野」という地域に近づくと,道すがら畑の土壌が「茶色」から「黒く」なってゆくのが分かります.黒ぼく土の母材は,通常は火山灰ですから,火山は何処だろうと探すと,すぐ近くに「田倉山(宝山)」というスコリア丘がありました.黒ボク土は田倉山のスコリア堆積物の上に九州から飛んできた姶良丹沢火山灰(AT)を挟んで発達しているそうですから(小滝,2004),母材の火山灰給源には議論があるとは思いますが見事な黒ボク土分布地帯です.「夜久野」という地名も,黒々とした土が広く分布しているのを夜の闇に譬えたかのような美しい名称です.夜久野の名産品は黒大豆とそばです.大豆は土壌からの酸素要求量が高く,通気性の良い黒ぼく土に有利な作物ですし,そばは火山灰に含まれるアルミニウムと結合した養分を溶かして使う能力の高い作物ですから,当に「適地適作」というところでしょう.丹波には「黒」を冠した名産品が多くあります.「丹波黒豆」,「丹波黒牛」,「丹波黒鶏」,「黒」と付くと特別な感じがして美味しそうです.また,夜久野はかつて漆の名産地で光秀の甲冑にも黒漆を使った豪勢な一品が伝えられています.光秀に「黒」というと「本能寺」を詠った頼山陽の有名な漢詩を思い出します.



本能寺 溝の深さ 幾尺なるぞ

我が大事をなすは今夕にあり

藁粽手にあり藁を併せて食らう

四簷の梅雨 天墨の如し



本能寺に向かう光秀の心も墨のごとく黒かった(特別だった)のでしょうか.
(森泉)

文献;小滝(2004)地球科学5817-24
黒ボク土の畑と田倉山(福知山市)