岡山大学資源植物科学研究所の坂本亘教授をお招きし、龍谷生命科学セミナー「植物の母性遺伝から考える葉緑体DNAの存在意義―受け継ぐDNAと壊されるDNA―」を開催しました。
植物の細胞質には、光合成を行う葉緑体や、呼吸を担うミトコンドリアという細胞小器官(オルガネラ)が存在します。
これらは、はるか昔に別の生物だったバクテリアが細胞の中に取り込まれたことに由来すると考えられています。
そのため、葉緑体とミトコンドリアは、現在でも自分自身のDNAを持っています。
多くの植物では、これらオルガネラのDNAは、父親(花粉親)側からはほとんど伝わらず、母親側から子どもへ受け継がれます。
これを母性遺伝と言います。
一方で、被子植物の20%程度は葉緑体DNAが両性遺伝すると考えられています。
両性遺伝する植物では、花粉からも子孫へ葉緑体が伝わります。
坂本先生は、「葉緑体がどのように作られ、その働きをどのように保っているのか?」について、遺伝学や植物生理学、発生学といったさまざまな手法を用いて研究されています。
今回は、これまでの多岐にわたる研究成果の中から、「DPD1」という遺伝子を中心に講演していただきました。
DPD1には、花粉が成熟する過程で葉緑体DNAを分解する働きがあります。
DPD1によるDNA分解は、葉緑体DNAの「母性遺伝」を支える仕組みの一つと考えられています。
ところが、DPD1がDNAを壊すのは花粉の中だけではありません。
古くなった葉でも、DPD1は葉緑体DNAを積極的に分解します。
DNAは、植物の生育に欠かせないリン(P)を構成成分として含んでいます。
坂本先生はこの点に着目し、「古くなった葉のDNAを分解することで、その中に含まれるリンを回収し、植物体内で再利用しているのではないか?」と考えられています。
一つの葉緑体には、葉緑体DNAが多数のコピーとして存在しています。
葉緑体DNAは、「遺伝情報を保存するもの」であるだけでなく、「Pを蓄えておく貯蔵庫」としての役割も持っているのかもしれない――。DNAの新たな役割について考える、とてもエキサイティングなお話でした。
セミナーは、オルガネラの共生進化という基本的な話から始まりました。
オルガネラDNAがどのように発見され、そして、どのように遺伝するのかについてご説明下さり、一方で、その原則に当てはまらない事例も存在することが紹介されました。
そこから「では、植物は、どのような仕組みで母性遺伝を支えているのか?」という問いへとつながり、一連の研究のストーリーとして分かりやすく説明してくださいました。
研究成果だけでなく、研究テーマがどのように生まれ、次の研究へとつながっていくのかについても知ることのできる、大変興味深いセミナーとなりました。
坂本先生、ありがとうございました!


