5月から6月にかけて収穫するソラマメ

 龍谷大学農学部の牧農場では,4学科の必修科目である「食の循環実習I,II」や「資源生物科学実習A,B」あるいは「調理実習」などでも活用することのある様々な農作物,園芸作物を栽培しています.「食の循環実習I」を1年生後期に履修した学生たちが実習で定植したソラマメ(品種:仁徳一寸)が,今,開花期を終えて莢伸長期を迎えています.本来であれば,6月早々には実習の中で収穫できたのですが,今般のcovid19感染拡大でそれもできません.今日はそんなソラマメたちの様子を紹介します.この作物は,収穫時期が23週間ぐらいにわたります.食べ頃の莢から収穫していきます.マメ科の花は蝶形花といいますが,基本的な構造は同じです.この時期に同じように収穫するエンドウの花の写真も載せておきます.花が咲いたら基部にある子房が徐々に肥大していきます.最初は空を向いて育つので「ソラマメ」と言いますし,カイコが作る繭のような毛に種子が包まれているから,あるいは莢の形が蚕に似ているから,「蚕豆」と呼ぶこともあります.だんだん成熟すると空を向いてた莢は地面と水平に,そして下を向くようになります.
 獲り頃はその頃,少し若い莢を,莢ごとオーブントースタで焼いて食べるととても美味しいです.莢内部の水分で蒸されるんですね.グラタンやまめご飯も美味しいですし,もちろん塩ゆでだけでも美味しく頂けます. 
 ついでにもう一つ,ソラマメは収穫後にも茎葉部(収穫残渣といいます)が緑色で多くの養分を持っています.これはダイズなどと違うところですね.また茎は中空なので刈取りも楽です.これらを畑にすき込めば,徐々に分解されて窒素やリンの肥料の代わりになります.マメ科なので根粒菌との共生窒素固定もしますから,もともと窒素肥料は少なくてすみます.私たちの研究では,収穫残渣をすき込めば,10アール(1000 m2)あたり2 kgぐらいの窒素に相当する量を与えるのと同じような肥料効果があることもわかっています.ソラマメに限らず,農作物の収穫残渣もうまく利用して循環型の生産に応用したいものです. 
 ちなみに,この時期にまめご飯が美味しいエンドウについての動画とソラマメの根粒についての動画をあげておきました.興味があったら見てみて下さい.
https://youtu.be/p18jiTUzLLc
https://youtu.be/e4XYKh2P-aQ
(資源生物科学科 大門)
開花期のソラマメ(品種:仁徳一寸)
莢伸長期(空を向いている)

ソラマメの花
エンドウの花
 

水やり当番

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発出を受け、本学においても学生の安全確保のために入構制限の措置がとられています。瀬田キャンパスは学生たちの姿もなく、閑散としています。しかし、どうしても欠かすことのできない作業があります。それは植物の水やりです。
 岩堀研(応用線虫学)では、卒業研究として色々な野菜に対する線虫の寄生性を調べています。そのため、たくさんの植物が栽培されています。植物寄生性の線虫の多くは絶対寄生性と言って、植物がないと生きてゆけません。線虫研究には植物の栽培が必須となります。意外に思われるかもしれませんが、おそらく農場以外で最も植物に満ち溢れているのは当研究室かもしれません。
 入構制限以前に学生たちが育成し、線虫を接種したポットやセルトレイ栽培のトマト、ナス、オクラ、ダイズ、ネギ、キク、ジャガイモ、イチゴなどは、現在なんと約1800株(!)もあります。通常であれば自分の植物は自分で管理しているのですが、入構制限となり学生たちは植物の世話ができなくなりました。彼らに替わって水やり当番をしているのが先生です。

植物培養室の植物たち

 線虫を接種された実験植物の水やりは、ただ水をかければよいというものではありません。植物培養室ではホースを使った灌水はできませんので、ポットやセルトレイ一つ一つ小さなジョウロや洗瓶で水をやります。溜め水をすると根が腐り線虫も死んでしまいますので、与え過ぎず、乾き過ぎずが基本です。蒸散度合いがポットごとに違いますので、乾いた分だけ灌水します。

温室の植物たち

 温室はシャワーノズルを付けたホースで灌水ができるのでだいぶ楽です。しかしそろそろ気温も上がりだし、蒸散も早く、一日もさぼることはできません。これらすべての植物に水やりを行うのに1時間半ほどかかります。もちろん、土日祝日も植物には関係ありません。水やりのために出勤する毎日です。早く学生たちに戻ってきてほしい…植物と先生は切に願っています。(岩堀)


新しい研究室名称

 それぞれの研究室はこれまで教員の名を冠した(例えば、山本研究室、山本ゼミ)といった呼称でした。
 これではその研究室の目指すところがわかりにくい、という意見があり、それぞれの研究室の分野を冠した名前を考え、本日、そのプレートが貼り付けられました。

 植物生命科学科では、下に示すようになりました。

 私の研究室では、環境変化に応答しようとする生物の生き様を調べます。変化を感知すること、対応しようとすること、それぞれは生物を特徴付ける性質の一つです。それを掘り下げたいと思っています。

 各々の研究室の目指すところを名称から感じていただければと思います。










(古本)

杉岡先生、ありがとうございました

農学部設立以来の学科のメンバーで、文学部との交流人事でお世話になっていた杉岡先生が4月から文学部に戻られることになりました。


「『いのち』を扱う農学部なのだから、仏教的な視点をきっちり教育してほしい」というのが、農学部設置当時の大学執行部の想いでした。どの学部にも設けられている「仏教の思想AおよびB」という科目に加え、農業の現場と仏教を架橋する科目、「食と農の倫理」という本農学部独自の必修科目を用意しました。

 農学部の4名の教員と仏教関係者4名からなる担当者によって、「遺伝子組換え技術と農業」「環境問題と農業」「食と安全」、そして「飢餓と飽食」という現代農業を取りまく難しい社会課題を論議するオムニバス講義です。科学を正しく理解し、現代において人や社会に寄り添いながら、どう振る舞うか、を語ることになります。

 杉岡先生には、「仏教の思想」に加え、チャレンジングなこの講義の取りまとめをお願いしておりました。

 この科目に加え、他の学内委員会においても、特に設置したての農学部にとって精神的な支柱でした。たいへんお世話になりました。これでお別れではなく、学内でまたお会いできるのは嬉しいことです。これまで本当にありがとうございました。
(古本)


土壌のまわりの物語 「丹波の黒」


 大河ドラマで「麒麟が来る」が始まりました.戦国武将の明智光秀を主人公とした物語です.一般には主君である織田信長に反旗を翻した「裏切り者」の悪名高い光秀ですが,光秀が治めていた京都・福知山の地では城下町を開拓し、善政を布いた領主として慕われている(福知山市ホームページ)そうです.この福知山市には,近畿には珍しい「黒ボク土」があると聞き,訪ねてみました.「黒ボク土」というのは,一般に火山灰が母材となった土壌で,有機物が多く蓄積するため「真っ黒」に見えます.近畿圏には火山が少ないので,あまり見かけません.福知山市の「夜久野」という地域に近づくと,道すがら畑の土壌が「茶色」から「黒く」なってゆくのが分かります.黒ぼく土の母材は,通常は火山灰ですから,火山は何処だろうと探すと,すぐ近くに「田倉山(宝山)」というスコリア丘がありました.黒ボク土は田倉山のスコリア堆積物の上に九州から飛んできた姶良丹沢火山灰(AT)を挟んで発達しているそうですから(小滝,2004),母材の火山灰給源には議論があるとは思いますが見事な黒ボク土分布地帯です.「夜久野」という地名も,黒々とした土が広く分布しているのを夜の闇に譬えたかのような美しい名称です.夜久野の名産品は黒大豆とそばです.大豆は土壌からの酸素要求量が高く,通気性の良い黒ぼく土に有利な作物ですし,そばは火山灰に含まれるアルミニウムと結合した養分を溶かして使う能力の高い作物ですから,当に「適地適作」というところでしょう.丹波には「黒」を冠した名産品が多くあります.「丹波黒豆」,「丹波黒牛」,「丹波黒鶏」,「黒」と付くと特別な感じがして美味しそうです.また,夜久野はかつて漆の名産地で光秀の甲冑にも黒漆を使った豪勢な一品が伝えられています.光秀に「黒」というと「本能寺」を詠った頼山陽の有名な漢詩を思い出します.



本能寺 溝の深さ 幾尺なるぞ

我が大事をなすは今夕にあり

藁粽手にあり藁を併せて食らう

四簷の梅雨 天墨の如し



本能寺に向かう光秀の心も墨のごとく黒かった(特別だった)のでしょうか.
(森泉)

文献;小滝(2004)地球科学5817-24
黒ボク土の畑と田倉山(福知山市)